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第60回SCCJセミナー「生活者に愛される香り・においを考える ~香り・においがもたらす効果と製品への応用展開~」

  • 早瀬委員長より開会挨拶
  • 埼玉大学大学院 長谷川先生ご講演風景
  • 講演終了後の質疑応答ブースへの案内図
  • 講演終了後の各ブースでの活発な質疑応答風景1
  • 講演終了後の各ブースでの活発な質疑応答風景2
  • 講演終了後の各ブースでの活発な質疑応答風景3
第60回SCCJセミナー
テーマ: 「生活者に愛される香り・においを考える~香り・においがもたらす効果と製品への応用展開~」
 2023年2月22日、第60回SCCJセミナーに参加しました。今回のテーマは 「生活者に愛される香り・においを考える~香り・においがもたらす効果と製品への応用展開~」です。開催方式はオンサイト(ビジョンセンター田町)とZOOMを介したライブ配信のハイブリッドで、オンサイト・オンライン併せて157名が参加し、盛況に終わりました。
 自身は久しぶりにオンサイトで参加させて頂きましたが、テーマが香り・においにフォーカスしたものなので香料会社に勤務する自身の研究テーマに身近で有用な情報満載で、時に取材という事を忘れ、大変充実した一日を過ごすことができました。
 セミナーは早瀬委員長の開会挨拶ではじまり、その後埼玉大学大学院長谷川先生より「におい分子受容体の世界」について、におい分子とその香気との構造活性相関やにおい受容体研究の奥深さなど講演頂きました。その後は業界内講師陣より、香粧品香料の安全管理体制、香りの生理作用、悪臭予防技術、体臭解析と消臭粉体の開発、そして食品香料(フレーバー)と香りの可視化など、計6演題の興味深い講演を拝聴することができました。
 普段なにげなく感じている香り・においは我々に心地よさを与えるだけでなく、その薬理作用や生理・心理効果から生活を豊かにできること、更に体臭をはじめとする嫌なにおい(臭い)の制御技術の重要性、など改めて実感する機会となりました。
 前澤副委員長の閉会挨拶後は各ブースに分かれて直接演者との質疑応答・意見交換できる時間が設けられ、会場⇒オンライン(oVice:バーチャルコミュニケーション空間を活用)の順で活発な質疑応答が繰り広げられました。会場では講演で取り上げた香り・においのデモサンプルを体感できるブースもあり、演者とのディスカッションに留まらず、参加者間でのコミュニケーションもあり、熱気に満ちた時間が経過しました。
コロナ禍でオンライン・オンディマンドでの開催の多かったここ数年ですが、会場でFace to Faceで納得いくまで議論が続いた光景に今後のSCCJ(日本化粧品技術者会)の明るい未来を垣間見た気がしました。

 最後に、本セミナーで興味深い講演をくださった先生方、そして企画運営くださったセミナー委員の皆様に感謝申し上げます。
ありがとうございました。
SCCJ広報委員 石田賢哉(高砂香料工業株式会社)

第60回SCCJセミナー 2023年2月22日(水)於:ビジョンセンター田町「ライブ配信あり」(公演数:6題/参加者:158名)
テーマ:生活者に愛される香り・においを考える〜香り・においがもたらす効果と製品への応用展開〜


演題①「 におい分子と受容体の出会いがもたらすにおいの世界」
埼玉大学大学院理工学研究科 准教授 長谷川 登志夫 先生

われわれの生活にはさまざまなにおいがあふれている。空気中に漂うにおいの元が鼻腔内のにおい受容体(嗅覚受容体)と相互作用し電気信号となって脳へ到達,においを感じている。においの元は親油性の有機分子であるが,同じ分子式でも二重結合の位置の違いや鏡像異性体等,空間的構造が異なるだけでにおいの特徴が異なってくる。受け手であるにおい受容体の種類は人では約400 しかないが,におい分子と受容体は1 対1 の関係ではなく,1 つのにおい分子は複数の受容体により認識され,また1 つの受容体は構造的に類似した複数のにおい分子を認識する。このことが数十万ともいわれるにおいを識別することにつながっている。
 本講演では,これらのにおいの仕組みと白檀や緑茶等,身近な素材の香気特性を構造から解析した事例をご講演いただいた。その後は,香気の体験も含め多くの方と活発な議論がなされる等,においの世界の興味関心の高さや奥深さを感じられる有意義な会であった。
(ライオン株式会社 尾本 百合子)

演題②「香粧品香料の安全管理体制について」
日本香料工業会IFRA 特命委員,曽田香料株式会社 鈴木 敦 氏

香料は,多くの化粧品や食品に使用されており,私たちにとって身近なものである。それゆえ「消費者の安全確保」「生態系などの環境保護」「作業者の安全確保」等を目的とした国内外の法規制を遵守している。一方,最終製品では「香料」の一括表示となっていることもあり,使用者からは香料の安全性面が見えづらい側面がある。そこで本講演では,香料の安全管理体制について解説いただくとともに,さらなる信頼性向上を目指すIFRA(International Fragrance Association)およびRIFM(Research Institute for Fragrance Materials)の取り組みに関してご講演いただいた。昨今,欧州を中心として化学物質
に対する法規制の改正など激しい動向が見られる中,香料の安全性管理に関する現状と今後について学ぶことができる大変有用な講演であった。
(ポーラ化成工業株式会社 加治 恵)

演題③「 香りの生理作用〜香りと眠りと体内時計〜」
株式会社資生堂 合津 陽子 氏

 近年ではCOVID-19 パンデミックによる行動制限やライフスタイルの変化によるストレスから,寝つきの悪さや生活の夜型化など睡眠に関する質の低下が問題となってきている。
 本講演では,健康と密接にかかわる香りと嗅覚,そして眠りと体内時計の関連を中心に,香りによる刺激がどのように生体中で応答し,内分泌系や自律神経系,免疫系を通じて心や身体に好影響をもたらすのか,コルチゾール量や脳波に関する実験データや研究事例,作用メカニズムについてご紹介いただいた。
 フリーディスカッションでは特に香りの濃度設定や測定法など実験条件について多くの質疑が交わされ,当該研究領域への関心の高さと今後の発展が期待される大変有用な講演となった。
(株式会社資生堂 清水 秀樹)

演題④「 悪臭を予防する技術〜4 種の原理に基づく悪臭マネジメント〜」
シムライズ株式会社 山路 裕隆 氏

 悪臭とは,ヒトに知覚できる臭気のうち不快なものを指すが,ヒトがにおいを感じる嗅覚は他の感覚器官同様に個々人の能力や嗜好に差があることはもちろん,他の感覚器官に比べても“慣れ” による影響が大きい。そのため万人に共通する「悪臭」の定義および強度の数値化が困難で騒音以上に個人差が大きい感覚公害である。今回は身の回りの悪臭を中心に,悪臭対策技術のプラットフォームとして普段用いているもののなかから,悪臭の発生からヒトが検知するまでの過程に沿って,いくつか
の実例とともにご紹介いただいた。状況に応じて有効な手段を使い分ける必要があるが,悪臭の発生からヒトがそれを検知するまでの過程に沿って,悪臭発生の予防,発生した悪臭物質の除去,嗅覚受容体の遮断,悪臭との知覚統合の4 段階に分けて悪臭対策方法についてわかりやすくご講演いただいた。
(株式会社ファイントゥデイ 松井 隆)

演題⑤「 体臭の解析とその特性に着目した消臭粉体“白色活性炭”」
株式会社マンダム 原 武史 氏

 本講演では,体臭の基本的な特性からデオドラント剤の機能性,さらにはデオドラント剤に応用可能な新たな機能性素材の開発についてご説明いただいた。
 「体臭」の発生は主に体内代謝,酸化分解,微生物代謝の3 種類の経路があり,頭皮,腋窩,足裏など部位によってもそのニオイの質は異なっている。これらのニオイに対しては「制汗」,「殺菌」,「消臭・吸着」,「マスキング」などの機能を有したデオドラント剤を用いられるが,とくに吸着作用をもった薬剤がニオイ対策には効果的という結果より,ニオイの吸着性の高い活性炭に着目し,化粧品に配合しやすいように酸化チタンを用いた活性炭の白色化技術を確立させて製剤化につなげられていた。これらの研究成果はニオイで悩む生活者にとってQOL 向上の一助となるものであり,今後の展開が期待される内容であった。
(株式会社日本色材工業研究所 佐藤 正幸)

演題⑥「 香りの可視化技術と食品における香料開発」
長谷川香料株式会社 水野 奈緒子 氏
 
「香りの可視化技術と食品における香料開発」という演題で以下の3 つの内容について,ご講演をいただいた。
 食品香料では,鼻先から吸い込まれる経路(オルソネーザル)だけでなく,飲食物を口に含んで飲み込む際に吐く息とともに鼻腔内に入り込む経路(レトロネーザル)からなることを共有いただいた。
 香りを正確に伝えるのは難しいので,香りを見える化するという取り組みを長谷川香料さまでは行っており,香りを「見える化」のトータルソリューションとしてAroma Value Visualizer(AVV)を開発した事例を紹介いただいた。
 HASEAROMA,まるかじりフレーバーなどを紹介いただき,「おいしさをつくる」オリジナル素材の紹介をいただいた。今回,食品香料分野における基本的な知識や取り組みをとてもわかりやすく共有され,今後の化粧品開発に参考とされる内容を学ぶことができた。
(株式会社ミルボン 伊藤 廉)