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第40回「SCCJセミナー」紫外線防御化粧品を支える技術と製剤:基礎から最新技術まで
9月28日(金)大阪国際交流センター大ホールにて、「紫外線防御化粧品を支える技術と製剤−基礎から最新技術まで−」と題し、製剤開発において重要な技術目標のひとつである紫外線をテーマに取り上げ、第40回SCCJセミナーを開催いたしました。
残暑厳しい中、当日参加者をあわせ223名もの方々にお越し頂きました。
当セミナーの企画・運営を行っているSCCJセミナー委員会より、各講演内容についてのレポートが届きました。
講演①「太陽光線に対する皮膚生理反応について」
東京工科大学 応用生物学部光老化研究室 教授 正木 仁 先生
光老化に代表される紫外線の悪影響は広く認知されるところになり、一般的にも高機能の紫外線防御化粧品が使われるようになっている。その一方で、最近、日焼け止めの多用や極端に日光を避ける生活のためか、ビタミンD欠乏症の発祥頻度の高まりも指摘され始めた。本講演では、あらためて紫外線だけでなく太陽光線すべてについて、人に及ぼす「功」、「罪」両面を確認し、その皮膚生理反応のメカニズムと今後の太陽光線防御の方向性についてご講演をいただいた。
太陽光線曝露による急性皮膚反応には、紅斑反応、即時、遅延黒化反応があり、これらがその表面的な反応だけでなく、皮膚免疫機能を低下させる。そのメカニズムは、表皮細胞、線維芽細胞の核DNA損傷、および、産生亢進した活性酸素等によって引き起こされ、さらに、慢性的な作用として、シワやタルミの形成が促進される。近年、これらの光老化が、可視光線や赤外線(IR)、熱によっても促進されることが明らかにされている。そのため、今後のサンスクリーン製品については、紫外線だけでなく、これらを含めた新しい太陽光線防御製品が求められるようになるのではないかという示唆をいただいた。
[(株)エフシージー総合研究所 久留戸 真奈美]
講演②「紫外線防御効果測定法に関する最近の動向について」
(株)コーセー研究所 基礎研究室有用性研究グループ 水野 誠 氏
日本では、日焼け止め化粧料の紫外線防御効果は、日本化粧品工業連合会(粧工連)が自主基準として定めたSPFとPAの指標で表されている。近年、これらの紫外線防御効果の測定法は国際的なハーモナイゼーションが進み、昨年、一昨年には国際標準化機構(ISO)から測定法としての国際基準も出された。UVAについては、日本の自主基準を参照したソーラーシュミレーターを使用した測定法が世界的にも広がっている。さらに、日本では、2013年度1月1日から新たに最高「PA++++」になるUVA防御効果の表記改正があり、これについてその経緯と注意すべき点をご説明いただいた。
また、紫外線防御測定、表記に関するアメリカ、EU,オーストラリアを含むアジア諸国の考え方と諸事情についても詳しい説明をいただき、各国の表記等が、すぐに統一されるものではないことが理解された。
すでに様々なタイプの高機能の紫外線防御化粧品が開発、一般に使用されている現状があり、消費者が安心して商品を選べるよう、正しい測定方法と表記を遵守して、信頼できる商品を提供していくことが非常に大切であること、製品を開発していくことの責任の重さをあらためて認識させられる講演であった。
[(株)エフシージー総合研究所 久留戸 真奈美]
講演③「化粧品開発に用いられる紫外線防御素材」
ポーラ化成工業(株) 開発研究部メークアップ開発室 本間 茂継 氏
紫外線防御素材として、紫外線散乱剤、紫外線吸収剤がある。紫外線散乱剤である酸化チタンは、粒径によりUV防御効果が異なるが、使用部分に透明性がなく白浮きしてしまうのが欠点であるため、塗膜の透明性が高い酸化亜鉛や、紫外線吸収剤を併用する。紫外線散乱剤の機能性を向上させるために、粒径だけでなく、形状、表面処理、スラリーの分散性向上、配合時の使用感に着目し、各原料メーカーで更なる開発が続けられている。本講演では機能(SPF、PFA、耐水性等)、品質(感触、塗膜の透明性)を1つの素材で高めることが可能な水分散型微粒子酸化チタン、P-TiO2の開発について講演いただいた。機能性の高いP-TiO2は水分散スラリーであり、油分散スラリーと併用することで更に高いUVA防御力が得られることを詳しく説明された。今後の処方設計にて高い汎用性が期待できる素材であり、大変意義深い講演であった。
[牛乳石鹸共進社(株) 寺 克彦]
講演④「高い紫外線防御効果とみずみずしい感触を両立させたサンスクリーンの開発」
(株)カネボウ化粧品 スキンケア研究所商品設計第一グループ 小田島 秀樹 氏
近年、消費者の紫外線に対する意識が高くなったことから、UV防御製剤はレジャー時だけでなく普段の生活の中でも使用される傾向が高くなってきている。本講演ではレジャー用、デイリー用製剤の特徴についてそれぞれの求められる機能、課題について詳しく説明され、レジャー用製剤の課題を補うための高耐水性ウォーターベース製剤の開発について講演いただいた。使用感を損なわないために製剤は水中油型を採用し、紫外線防御効果を持たせるために特殊な疎水化処理紫外線散乱剤を高配合し、さらに紫外線散乱剤を併用できる高分子ゲルを用いて活性剤フリーの製剤を開発された。このような製剤を開発することにより、みずみずしい感触と高い耐水性機能を両立することが可能になることを図解により詳しく説明された。消費者の幅広い使用シーンに対し満足した機能を有する製剤についてのお話であり、大変有用な講演であった。
[牛乳石鹸共進社(株) 寺 克彦]
講演⑤「デイリー使用向けのUVケア化粧品の開発」
花王(株) スキンビューティ研究所 井下 美緒 氏
UVAは季節変動が少なく日常的に皮膚深部にダメージを与え、シワやシミ等の皮膚光老化を引き起こすため、UVAに対する防御意識が世界的に高まっている。本講演では、デイリー使用で使用感を損なわず、高いUVA防御効果と高い透明性を併せ持つ紫外線防御素材と製剤化技術について講演いただいた。UVAの防御能が高い無機散乱剤として薄片状酸化亜鉛があるが、製造時の結晶化条件を最適化し、更なる薄片化とオクチルシリル(OS)による表面処理によって、高いUVA防御効果と高い透明性を両立したW/O製剤が可能になることを例示された。また、OS処理薄片状酸化亜鉛に固体脂と液脂を組み合わせることで、肌表面の閉塞性が増し、デイリー使用向けのUVケア化粧品の開発に必要なノウハウを紹介いただき、製剤研究者にとって非常に有益な講演であった。
[牛乳石鹸共進社(株) 寺 克彦]
講演⑥「毛髪の紫外線ダメージ — 評価指標とダメージケア — 」
(株)資生堂 リサーチセンター 渡辺 智子 氏
紫外線による毛髪ダメージの特長とダメージの検出・定量法及びダメージケアについてご講演頂いた。
近年肌に対する紫外線防御の意識は高まってきたが、毛髪は肌のようにほてりや赤みといった反応が伴わないため、気付かないうちに紫外線に曝されやすい。毛髪は日常生活でも紫外線による軽微なダメージを常に受けており、蓄積していくと実感できるレベルの大きなダメージを引き起こす。初期の軽微なダメージを検出できれば、ダメージの定量・ダメージケア製品の効果測定が可能となるので、紫外線による毛髪ダメージの特長とダメージの検出・定量法を確立・検証し、製品開発に繋げられた。
ヘアダメージはヘアカラーによるものだけでなく、紫外線ファクターも重要であり、紫外線ダメージプロテクト効果のあるヘアケア製品開発のアプローチの実例も紹介され、これからのヘアダメージプロテクト製品開発に役立つ講演であった。
[大日本化成(株) 吉岡 隆嗣]
講演⑦「世界初の宇宙帆船「IKAROS」による太陽系大航海」
宇宙航空研究開発機構 月・惑星探査プログラムグループ 助教 森 治 先生
私たちが通常考える太陽光や電磁波を宇宙航空という観点から太陽光をマクロに捉え、世界初の宇宙帆船(ソーラーセイル)を誕生させるという困難なプロジェクトにどのように立ち向かっていったか、その挑戦することの素晴らしさについても述べて頂いた。
宇宙帆船(ソーラーセイル)は,太陽光の圧力をセイル(帆)に受けて、燃料なしで推進力を得ることができる夢の宇宙船である。このアイデア自体は約100年前からあり、世界中で研究開発が行われているが、技術的なハードルが非常に高くこれまで実現されていなかった。宇宙航空研究開発機構(JAXA)IKAROSチームは、若手メンバー主体で予算・スケジュールを厳しく制限されながらも、世界最先端の材料技術を駆使し、日本の伝統である「折り紙」を取り入れるなど創意工夫も凝らしてIKAROSを開発し、世界で初めて宇宙帆船を実証することに成功した。
「IKAROS」の運用期間に“はやぶさ”が小惑星「イトカワ」から帰還したので、宇宙の話題は“はやぶさ”に浚われたようになったが、従来の科学衛星の10分の1規模の予算でも計画されたミッション全てを達成された偉業は、夢への挑戦と知恵の結集であり、科学者の熱意が伝ってきた講演であった。
[大日本化成(株) 吉岡 隆嗣]
残暑厳しい中、当日参加者をあわせ223名もの方々にお越し頂きました。
当セミナーの企画・運営を行っているSCCJセミナー委員会より、各講演内容についてのレポートが届きました。
講演①「太陽光線に対する皮膚生理反応について」
東京工科大学 応用生物学部光老化研究室 教授 正木 仁 先生
光老化に代表される紫外線の悪影響は広く認知されるところになり、一般的にも高機能の紫外線防御化粧品が使われるようになっている。その一方で、最近、日焼け止めの多用や極端に日光を避ける生活のためか、ビタミンD欠乏症の発祥頻度の高まりも指摘され始めた。本講演では、あらためて紫外線だけでなく太陽光線すべてについて、人に及ぼす「功」、「罪」両面を確認し、その皮膚生理反応のメカニズムと今後の太陽光線防御の方向性についてご講演をいただいた。
太陽光線曝露による急性皮膚反応には、紅斑反応、即時、遅延黒化反応があり、これらがその表面的な反応だけでなく、皮膚免疫機能を低下させる。そのメカニズムは、表皮細胞、線維芽細胞の核DNA損傷、および、産生亢進した活性酸素等によって引き起こされ、さらに、慢性的な作用として、シワやタルミの形成が促進される。近年、これらの光老化が、可視光線や赤外線(IR)、熱によっても促進されることが明らかにされている。そのため、今後のサンスクリーン製品については、紫外線だけでなく、これらを含めた新しい太陽光線防御製品が求められるようになるのではないかという示唆をいただいた。
[(株)エフシージー総合研究所 久留戸 真奈美]
講演②「紫外線防御効果測定法に関する最近の動向について」
(株)コーセー研究所 基礎研究室有用性研究グループ 水野 誠 氏
日本では、日焼け止め化粧料の紫外線防御効果は、日本化粧品工業連合会(粧工連)が自主基準として定めたSPFとPAの指標で表されている。近年、これらの紫外線防御効果の測定法は国際的なハーモナイゼーションが進み、昨年、一昨年には国際標準化機構(ISO)から測定法としての国際基準も出された。UVAについては、日本の自主基準を参照したソーラーシュミレーターを使用した測定法が世界的にも広がっている。さらに、日本では、2013年度1月1日から新たに最高「PA++++」になるUVA防御効果の表記改正があり、これについてその経緯と注意すべき点をご説明いただいた。
また、紫外線防御測定、表記に関するアメリカ、EU,オーストラリアを含むアジア諸国の考え方と諸事情についても詳しい説明をいただき、各国の表記等が、すぐに統一されるものではないことが理解された。
すでに様々なタイプの高機能の紫外線防御化粧品が開発、一般に使用されている現状があり、消費者が安心して商品を選べるよう、正しい測定方法と表記を遵守して、信頼できる商品を提供していくことが非常に大切であること、製品を開発していくことの責任の重さをあらためて認識させられる講演であった。
[(株)エフシージー総合研究所 久留戸 真奈美]
講演③「化粧品開発に用いられる紫外線防御素材」
ポーラ化成工業(株) 開発研究部メークアップ開発室 本間 茂継 氏
紫外線防御素材として、紫外線散乱剤、紫外線吸収剤がある。紫外線散乱剤である酸化チタンは、粒径によりUV防御効果が異なるが、使用部分に透明性がなく白浮きしてしまうのが欠点であるため、塗膜の透明性が高い酸化亜鉛や、紫外線吸収剤を併用する。紫外線散乱剤の機能性を向上させるために、粒径だけでなく、形状、表面処理、スラリーの分散性向上、配合時の使用感に着目し、各原料メーカーで更なる開発が続けられている。本講演では機能(SPF、PFA、耐水性等)、品質(感触、塗膜の透明性)を1つの素材で高めることが可能な水分散型微粒子酸化チタン、P-TiO2の開発について講演いただいた。機能性の高いP-TiO2は水分散スラリーであり、油分散スラリーと併用することで更に高いUVA防御力が得られることを詳しく説明された。今後の処方設計にて高い汎用性が期待できる素材であり、大変意義深い講演であった。
[牛乳石鹸共進社(株) 寺 克彦]
講演④「高い紫外線防御効果とみずみずしい感触を両立させたサンスクリーンの開発」
(株)カネボウ化粧品 スキンケア研究所商品設計第一グループ 小田島 秀樹 氏
近年、消費者の紫外線に対する意識が高くなったことから、UV防御製剤はレジャー時だけでなく普段の生活の中でも使用される傾向が高くなってきている。本講演ではレジャー用、デイリー用製剤の特徴についてそれぞれの求められる機能、課題について詳しく説明され、レジャー用製剤の課題を補うための高耐水性ウォーターベース製剤の開発について講演いただいた。使用感を損なわないために製剤は水中油型を採用し、紫外線防御効果を持たせるために特殊な疎水化処理紫外線散乱剤を高配合し、さらに紫外線散乱剤を併用できる高分子ゲルを用いて活性剤フリーの製剤を開発された。このような製剤を開発することにより、みずみずしい感触と高い耐水性機能を両立することが可能になることを図解により詳しく説明された。消費者の幅広い使用シーンに対し満足した機能を有する製剤についてのお話であり、大変有用な講演であった。
[牛乳石鹸共進社(株) 寺 克彦]
講演⑤「デイリー使用向けのUVケア化粧品の開発」
花王(株) スキンビューティ研究所 井下 美緒 氏
UVAは季節変動が少なく日常的に皮膚深部にダメージを与え、シワやシミ等の皮膚光老化を引き起こすため、UVAに対する防御意識が世界的に高まっている。本講演では、デイリー使用で使用感を損なわず、高いUVA防御効果と高い透明性を併せ持つ紫外線防御素材と製剤化技術について講演いただいた。UVAの防御能が高い無機散乱剤として薄片状酸化亜鉛があるが、製造時の結晶化条件を最適化し、更なる薄片化とオクチルシリル(OS)による表面処理によって、高いUVA防御効果と高い透明性を両立したW/O製剤が可能になることを例示された。また、OS処理薄片状酸化亜鉛に固体脂と液脂を組み合わせることで、肌表面の閉塞性が増し、デイリー使用向けのUVケア化粧品の開発に必要なノウハウを紹介いただき、製剤研究者にとって非常に有益な講演であった。
[牛乳石鹸共進社(株) 寺 克彦]
講演⑥「毛髪の紫外線ダメージ — 評価指標とダメージケア — 」
(株)資生堂 リサーチセンター 渡辺 智子 氏
紫外線による毛髪ダメージの特長とダメージの検出・定量法及びダメージケアについてご講演頂いた。
近年肌に対する紫外線防御の意識は高まってきたが、毛髪は肌のようにほてりや赤みといった反応が伴わないため、気付かないうちに紫外線に曝されやすい。毛髪は日常生活でも紫外線による軽微なダメージを常に受けており、蓄積していくと実感できるレベルの大きなダメージを引き起こす。初期の軽微なダメージを検出できれば、ダメージの定量・ダメージケア製品の効果測定が可能となるので、紫外線による毛髪ダメージの特長とダメージの検出・定量法を確立・検証し、製品開発に繋げられた。
ヘアダメージはヘアカラーによるものだけでなく、紫外線ファクターも重要であり、紫外線ダメージプロテクト効果のあるヘアケア製品開発のアプローチの実例も紹介され、これからのヘアダメージプロテクト製品開発に役立つ講演であった。
[大日本化成(株) 吉岡 隆嗣]
講演⑦「世界初の宇宙帆船「IKAROS」による太陽系大航海」
宇宙航空研究開発機構 月・惑星探査プログラムグループ 助教 森 治 先生
私たちが通常考える太陽光や電磁波を宇宙航空という観点から太陽光をマクロに捉え、世界初の宇宙帆船(ソーラーセイル)を誕生させるという困難なプロジェクトにどのように立ち向かっていったか、その挑戦することの素晴らしさについても述べて頂いた。
宇宙帆船(ソーラーセイル)は,太陽光の圧力をセイル(帆)に受けて、燃料なしで推進力を得ることができる夢の宇宙船である。このアイデア自体は約100年前からあり、世界中で研究開発が行われているが、技術的なハードルが非常に高くこれまで実現されていなかった。宇宙航空研究開発機構(JAXA)IKAROSチームは、若手メンバー主体で予算・スケジュールを厳しく制限されながらも、世界最先端の材料技術を駆使し、日本の伝統である「折り紙」を取り入れるなど創意工夫も凝らしてIKAROSを開発し、世界で初めて宇宙帆船を実証することに成功した。
「IKAROS」の運用期間に“はやぶさ”が小惑星「イトカワ」から帰還したので、宇宙の話題は“はやぶさ”に浚われたようになったが、従来の科学衛星の10分の1規模の予算でも計画されたミッション全てを達成された偉業は、夢への挑戦と知恵の結集であり、科学者の熱意が伝ってきた講演であった。
[大日本化成(株) 吉岡 隆嗣]