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第43回 「SCCJセミナー」におい・香りのコントロール技術 〜基礎から製剤設計まで〜

2014年2月27日(木)大阪国際交流センタにて、第43回SCCJセミナーを開催いたしました。今回のテーマは「におい・香りのコントロール技術−基礎から製剤設計まで−」と題し、7題の講演を行い、参加者は191名となりました。各座長のセミナーレポートをご紹介いたします。



講演①「香りの基礎知識−香りの心理的な作用−」
東北大学 大学院文学研究科 心理学研究室 坂井 信之 先生
香りは私たちの生活において様々な影響を及ぼしている。特に香りの効果は、生活者の購買意欲を高める一要因になっている。その香りが人間の感覚にどのように影響を及ぼしているかを、興味深い実験結果と共にご講演いただいた。ただの水が入ったコップに香料を添付すると、実際には呈味物質は入っていないが、味がするように感じられるという実験などもその一つであり、嗅覚が味覚に影響する一例である。嗅覚は五感の中でどのような位置づけになるのであろう。五感は遠受容性感覚と近受容性感覚とに大別され、遠受容性感覚には視覚、聴覚など、対象物が離れていても感じられる感覚で、近受容性感覚には対象物が近い味覚、触覚がある。その中で嗅覚は中間的で、中心的な位置づけとなる。本講演は、香り(嗅覚)が人間の感覚に及ぼす様々な影響を実験結果からわかりやすく解説していただきとても興味深いものであった。個人的にはさらに詳しい内容を聞いてみたいと感じられた。
(東色ピグメント(株) 前野 広史)
 

講演②「香り、匂い、臭いと香料とは何か−香粧品香料(フレグランス)に関する最近の規制動向−」
長谷川香料(株) 浅越 亨 氏
香粧品香料は、大別して天然から抽出する天然香料、化学合成で作られる合成香料とそれらを調香技術で調合した調合香料に分類される。それらの香料についての特徴などをからめ、特に調合香料については、トップノート、ミドルノート、ベースノートの特徴とそれらをバランスよく配合する技術を紹介された。また、香料に関しての国際的規制に関しても詳しくご講演いただいた。規制環境は、基本的に三つに分類され、国際的な業界自主基準としてのIFRA規制、化学物質に関する規制、グローバルな社会及び規制動向がある。その中でもIFRA規制は、国際的な業界自主基準として位置づけられる重要な指針であり、また、2006年からはQRA(Quantitative Risk Assessment)が皮膚感作性の香料素材に対して導入され、皮膚アレルギーに対する注意がなされている。また、欧州のREACHに代表されるような化学物質としての規制もあり、香料についてのレギュレーションをじっくり拝聴するいい機会となった。
(東色ピグメント(株) 前野 広史)
 

講演③「化学的見地及び経験から見た香料の安定性」
高砂香料工業(株)フレグランス研究所 鈴木 隆 氏
香料とは、性質の異なる様々な有機化合物が混ざり合った混合物であり、反応性に富んだものが多い。本講演では、香料を化粧品に使用する際に生じる不安定性要素を化学的見地、および経験から導き出された知見から留意すべき問題について講演を頂いた。製品中での香料の安定性とは、香気の安定性に加え、製品自身の品質や機能外観を損なう要因を最小限に抑えることを意味する。しかし、香料が使用される製品の多様性、容器の化学的性質、附香率とも関連してくるため、一概に傾向を述べることが難しい。今回は、1例として、高アルカリ製剤のヘアカラー、パーマ剤に適した香料成分は、アルコール、エーテル、フェノールタイプが安定性に優れ、適しているとのお話を頂いた。香料を選択する上で、最終製品特性の情報を共有することが、リスクコントロールされた製品開発に繋がることを再認識させる講演であった。
(岩瀬コスファ(株) 里中 研哉)
 

講演④「香りの心理効果と化粧品への応用」
(株)コーセー 研究所 スキンケア製品研究室 元永 千穂 氏
身体の健康は、脳の様々な働きが関連し、特に視床下部が、身体の恒常性を維持・コントロールする機能をもつ。社会問題となっている様々なストレスや、香りの刺激は、視床下部に伝わる伝達経路を持つことより、これらストレスに対して、香りが持つ心理生理的効果が期待されている。本講演では、心理生理学的な影響を評価する手法「心理学的な解析・評価」と生理学や生化学、免疫学的な手法を応用した「生理的解析・評価」の紹介、および、展開例として、サイプレス精油を配合した一連の化粧品(入浴剤・ボディソープ・ボディジェル・フレグランス・アロマオイル)が、心理的ストレスをコントロールし、減量効果が期待できることが紹介された。化粧品における香りの効果について、心理生理的な見地から更なる可能性を感じる講演であった。
(岩瀬コスファ(株) 里中 研哉)
 

講演⑤「消臭技術とデオドラント製剤への応用」
ライオン(株) ビューティケア研究所 長島 慎一 氏
近年、より快適な生活を求める消費者の価値観やニーズの高まりを受け、デオドラント製品や布用、空間用など日用品の消臭製品市場が活性化している。本講演では、基礎的な体臭の発生機構から始まり、種々な消臭方法および、消臭機能と使用感を両立した製剤への応用について具体的な事例を示しながら解りやすく紹介頂いた。効率的に消臭を行うには目的成分の特徴を押さえることが重要であり、今回は体臭成分の中でも不快度が高い低級脂肪酸に対して高い消臭効果を有する酸化亜鉛をテーマに、酸化亜鉛の複合粉体を開発することで、酸化亜鉛の欠点を改良し、高い消臭効果と良好な使用感の両立が可能になることを説明された。消臭製品の開発に必要な情報を紹介して頂き、製剤研究者ばかりでなく、原料開発者にとって非常に有益な講演であった。
(岩瀬コスファ(株) 里中 研哉)
 

講演⑥「体臭の加齢変化に対応した防臭技術の開発」
(株)マンダム 技術開発センター 志水 弘典 氏
近年、気候の温暖化や節電などの影響により、幅広い年代の生活者において体臭に対する意識が年々高まっていることから、様々な機能を有するデオドラント製剤が開発、上市されている。本講演では嗅覚による体臭(腋臭)の特性を説明され、また、既知の「加齢臭」とは異なるミドル男性特有の体臭成分(ジアセチル)を特定し、その発生メカニズムと抑制メカニズムにおける一連の研究成果について講演いただいた。体臭は、複数のニオイからなる混合臭であるが、同部位でもニオイの質や強度に個人差がある。さらに加齢による変化でより複雑なものへと変化するため、体臭をより効果的に抑制するためには、ニオイタイプを判別し、タイプ毎に異なるニオイの原因へしっかり対応することが重要であると説明いただいた。今後のデオドラント製剤開発のヒントに繋がる大変有用な講演であった。
(牛乳石鹸共進社(株) 寺﨑 克彦)
 

講演⑦「日本の香り〜間の粧(めか)し」
(株)日本香堂 研究室 鳥毛 逸平 先生
「香り」は伝統を礎に、その美学と技術は今も継承されている。今回は「日本の香り」にこだわり、香りの歴史とお香の種類や原料など豊富な知識の中から簡潔に説明され、「空間を粧す」という意味について写真を交えて分かりやすく紹介していただいた。日本での「香」の歴史は、飛鳥時代の仏教伝来の頃から始まり、室町時代に香道が生まれ、江戸時代には庶民の生活まで取り入れられてきた。また、「残り香」という日本人的美意識に注目され、加熱品と非加熱品の違い、良い香りにするために基材臭や変臭などの問題点や残留性といった技術的視点についても例示された。香りをどのように空間に「粧す」か、また、商品開発に関するアプローチの仕方など、化粧品の開発にも繋がる内容であり、とても有意義な講演であった。
(牛乳石鹸共進社(株) 寺﨑 克彦)