EVENT イベント
第211回講演会 (西日本支部)
第211回講演会を2020年2月19日(水)、大阪国際交流センター・小ホールにて開催いたしました。
1題目は千葉大学大学院薬学研究院 教授 斉藤和季先生より、『植物はなぜ薬を作るのか ~植物は地球を救う~』と題して、植物が作る薬や成分の例を交えながら、人間と植物と薬の奥深い関係についてお話いただきました。
始めに私たちの身近にある植物成分(カフェイン、ルチン)や植物から得られた薬(モルヒネやアスピリンなど)、植物由来の抗ガン薬の作用や薬効についてご説明いただきました。
薬の発見はセレンディピティー(偶然の所産)と言われ、人類は古くから植物成分を薬として使用し、それは知識として集積されてきました。1世紀頃、東洋では365品の生薬が分類された「神農本草経」が、西洋では約600種の薬用植物が分類された「マテリア・メディカ(薬物誌)」が著されました。薬学の成り立ちは東洋と西洋では異なり、東洋医薬は全体システム主義の考え方(たくさんの植物成分が混ざった生薬の組み合わせ)、西洋医薬は要素還元主義の考え方(植物成分を精製した単一成分)で発展してきました。現在の医療では、両方の優れた点が取り入れられています。
このように私たちは植物から多くの恵みを受けていますが、次に植物がなぜ薬となる成分を作るのかについて、解説いただきました。
陸上植物には人類の1000~2000倍も長い歴史があります。進化の過程で植物は動物と異なり「動かない」という生き方を選択し、三つの生存戦略を発達させました。
1.生存に必要なエネルギーと物質の自立的生産(光合成経路)
2.外敵やストレスからの防御(二次代謝経路①):化学構造が複雑で多様な成分(上手に使えば薬となる)
3.生殖の効率化(二次代謝経路②):香りや色のついた化学成分(昆虫を引き寄せる)
この植物独自の生存戦略により、植物は多くの薬となる成分を私たち人類にもたらすことになりました。
最後にこれからの人間と植物の関係についてお話いただきました。現在、私たちは世界的な人口増加、地球温暖化など重要な問題に直面しています。これらの解決策も植物が担っているようです。
イギリスのキュー植物園のデータによると、地球上に存在する約39万種の植物種のうち、実際に利用実績のある植物種は約3万種で、ゲノム配列が決定されているのは僅か139種とのことです。今後の研究により光合成機能の向上、未知の植物成分の活用などが期待されます。
身近な成分から環境問題まで私たちの生活が植物に支えられていることを知り、植物の偉大さを感じました。
2題目はカワダロボティクス株式会社 代表取締役社長 川田 忠裕様より、『少子高齢化時代に活躍する「人と一緒に働くヒト型ロボットNEXTAGE」』と題して、その開発経緯を同社の歴史的背景、時代背景を踏まえてお話いただきました。少子高齢化による働き手不足はどの企業においても喫緊の課題であり、その課題を解決することを目的として「人と一緒に働くヒト型ロボットNEXTAGE」は開発が行われ、実際に化粧品製造工場にも導入されています。
同社は祖業の刀鍛冶の技術を活かした鉄工所を経て、現在は橋を作る仕事をメインに行っておられます。どうして橋の会社がロボットかと思われますが、事業の多角化の一環で航空事業に乗り出し、ヘリコプターの販売・修理・改造、パイロットの養成を経て、念願のヘリコプターの新機種の研究開発に取り組んでおられました。しかし時代背景から凍結せざるを得なくなりました。
このヘリコプターの研究開発で培った知識と技術を活かし、自動車に乗っている人の不快感を取り除く車いすの固定装置やフライトシミュレーターなどを続々と発表されました。「カワダに電話すれば何かを作ってくれるぞ」と言われるようになり、1999年に東京大学からヒト型ロボットを作ってくれないかという依頼を受けたのがロボット開発のきっかけでした。
その後、大学や研究機関が研究に使うロボットを提供するようになりました。ヒト型ロボットの可能性を研究する人間協調・共存型ロボットシステムの国家プロジェクトにも参画し、人と共同作業するロボットの研究開発をされました。
しかし研究用のロボット開発だけでは営利企業としての継続は困難でした。そのためセル生産における組み立てロボットとして使えないだろうかという要望から、“日本にモノづくりを残すためのロボット”、“人と一緒に働くロボット”、“人不足を補うロボット”、と持続可能なロボット事業が始まりました。これが人のやっている作業を代替し、人と一緒に働くヒト型ロボット「NEXTAGE」です。第5回ロボット大賞「次世代産業賞」やグッドデザイン賞を受賞し、導入企業では現場作業の効率が良くなり、中国に出していた生産を日本に戻す例も出てきています。また三品産業(食品・化粧品・医薬品)での導入や様々な分野で使っていくための研究も進んでおり、人と一緒に働くヒト型ロボットが活躍するようになってきています。
化粧品とロボットは全く違う物でありますが、モノづくりという点では同じであります。大きな目標に向かって真摯に研究開発に取り組まれている様や熱量が伝わる講演でした。チャンスを捉え、ピボットし、自社の強みである技術を最大限活かして新たな分野を切り開かれたことは実に圧巻です。かつては映画の中の世界であった人とロボットとの共存が、たゆみない努力によって現実になり、これからの世の中を支える重要な位置づけになっています。モノづくりに携わる者として強い感銘を受けました。
1題目は千葉大学大学院薬学研究院 教授 斉藤和季先生より、『植物はなぜ薬を作るのか ~植物は地球を救う~』と題して、植物が作る薬や成分の例を交えながら、人間と植物と薬の奥深い関係についてお話いただきました。
始めに私たちの身近にある植物成分(カフェイン、ルチン)や植物から得られた薬(モルヒネやアスピリンなど)、植物由来の抗ガン薬の作用や薬効についてご説明いただきました。
薬の発見はセレンディピティー(偶然の所産)と言われ、人類は古くから植物成分を薬として使用し、それは知識として集積されてきました。1世紀頃、東洋では365品の生薬が分類された「神農本草経」が、西洋では約600種の薬用植物が分類された「マテリア・メディカ(薬物誌)」が著されました。薬学の成り立ちは東洋と西洋では異なり、東洋医薬は全体システム主義の考え方(たくさんの植物成分が混ざった生薬の組み合わせ)、西洋医薬は要素還元主義の考え方(植物成分を精製した単一成分)で発展してきました。現在の医療では、両方の優れた点が取り入れられています。
このように私たちは植物から多くの恵みを受けていますが、次に植物がなぜ薬となる成分を作るのかについて、解説いただきました。
陸上植物には人類の1000~2000倍も長い歴史があります。進化の過程で植物は動物と異なり「動かない」という生き方を選択し、三つの生存戦略を発達させました。
1.生存に必要なエネルギーと物質の自立的生産(光合成経路)
2.外敵やストレスからの防御(二次代謝経路①):化学構造が複雑で多様な成分(上手に使えば薬となる)
3.生殖の効率化(二次代謝経路②):香りや色のついた化学成分(昆虫を引き寄せる)
この植物独自の生存戦略により、植物は多くの薬となる成分を私たち人類にもたらすことになりました。
最後にこれからの人間と植物の関係についてお話いただきました。現在、私たちは世界的な人口増加、地球温暖化など重要な問題に直面しています。これらの解決策も植物が担っているようです。
イギリスのキュー植物園のデータによると、地球上に存在する約39万種の植物種のうち、実際に利用実績のある植物種は約3万種で、ゲノム配列が決定されているのは僅か139種とのことです。今後の研究により光合成機能の向上、未知の植物成分の活用などが期待されます。
身近な成分から環境問題まで私たちの生活が植物に支えられていることを知り、植物の偉大さを感じました。
2題目はカワダロボティクス株式会社 代表取締役社長 川田 忠裕様より、『少子高齢化時代に活躍する「人と一緒に働くヒト型ロボットNEXTAGE」』と題して、その開発経緯を同社の歴史的背景、時代背景を踏まえてお話いただきました。少子高齢化による働き手不足はどの企業においても喫緊の課題であり、その課題を解決することを目的として「人と一緒に働くヒト型ロボットNEXTAGE」は開発が行われ、実際に化粧品製造工場にも導入されています。
同社は祖業の刀鍛冶の技術を活かした鉄工所を経て、現在は橋を作る仕事をメインに行っておられます。どうして橋の会社がロボットかと思われますが、事業の多角化の一環で航空事業に乗り出し、ヘリコプターの販売・修理・改造、パイロットの養成を経て、念願のヘリコプターの新機種の研究開発に取り組んでおられました。しかし時代背景から凍結せざるを得なくなりました。
このヘリコプターの研究開発で培った知識と技術を活かし、自動車に乗っている人の不快感を取り除く車いすの固定装置やフライトシミュレーターなどを続々と発表されました。「カワダに電話すれば何かを作ってくれるぞ」と言われるようになり、1999年に東京大学からヒト型ロボットを作ってくれないかという依頼を受けたのがロボット開発のきっかけでした。
その後、大学や研究機関が研究に使うロボットを提供するようになりました。ヒト型ロボットの可能性を研究する人間協調・共存型ロボットシステムの国家プロジェクトにも参画し、人と共同作業するロボットの研究開発をされました。
しかし研究用のロボット開発だけでは営利企業としての継続は困難でした。そのためセル生産における組み立てロボットとして使えないだろうかという要望から、“日本にモノづくりを残すためのロボット”、“人と一緒に働くロボット”、“人不足を補うロボット”、と持続可能なロボット事業が始まりました。これが人のやっている作業を代替し、人と一緒に働くヒト型ロボット「NEXTAGE」です。第5回ロボット大賞「次世代産業賞」やグッドデザイン賞を受賞し、導入企業では現場作業の効率が良くなり、中国に出していた生産を日本に戻す例も出てきています。また三品産業(食品・化粧品・医薬品)での導入や様々な分野で使っていくための研究も進んでおり、人と一緒に働くヒト型ロボットが活躍するようになってきています。
化粧品とロボットは全く違う物でありますが、モノづくりという点では同じであります。大きな目標に向かって真摯に研究開発に取り組まれている様や熱量が伝わる講演でした。チャンスを捉え、ピボットし、自社の強みである技術を最大限活かして新たな分野を切り開かれたことは実に圧巻です。かつては映画の中の世界であった人とロボットとの共存が、たゆみない努力によって現実になり、これからの世の中を支える重要な位置づけになっています。モノづくりに携わる者として強い感銘を受けました。
関連リンク
第211回講演会 (西日本支部)