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第54回SCCJ セミナー「クレーム/トラブルから学ぶ化粧品開発」
「第54回SCCJセミナー クレーム/トラブルから学ぶ化粧品開発-安心・安全のために必要な品質の設計と保証-」参加レポート
9月20日(金)に、きゅりあんで開催された「第54回SCCJセミナー クレーム/トラブルから学ぶ化粧品開発-安心・安全のために必要な品質の設計と保証-」に参加させていただきました。
今回は6名の講師の方々から「製剤の肌への影響」「化粧品ならではの容器のトラブルとその対応策」「使用状況を考慮した品質保証の考え方と安全性評価・安定性試験の実際」「日本と海外での規制の相違」等について、現場のリアルな状況や画像を交えてご講演いただきました。
普通は各社のクレーム・トラブル事例やそれを防ぐための製品設計の考え方は自社内にとどめることが多いかと思いますが、今回は講師方からご自身の経験を踏まえて様々な事例をご紹介くださったことで、とても臨場感のある内容となり、クレーム/トラブルを防ぐ製品開発のヒントがちりばめられている、とても充実したセミナーとなりました。そのため会場の参加者も皆、ノートを取りながら真剣に聴講していました。
また、今回は(独)製品評価技術基盤機構の吉津兼人氏から、モバイルバッテリーの発火事故や洗面化粧台の落下事故、幼児用遊具の安全装置不備による重大事故など、化粧品以外の製品での事故事例についてご紹介いただき、日常の中にこんなにも危険要素が多いということに改めて気づかされました。
さらに、講演終了後には講師の方々と直接意見交換ができる時間が設けられ、参加者はそれぞれ自分の現場での状況やその対応策について熱心にディスカッションされ、有益なアドバイスをいただいていました。
化粧品を含め、私たちの身近にある製品の品質設計やその保証は、これまでも十分考慮されてはいますが、消費者の想定外の使用(過度な使用量・保存場所等)によって危険な事故や障害が生じるリスクが高いということでした。昨今、お客様一人一人のニーズにこたえるために、化粧品を始めとして、オーダーメイドやカスタマイズ性の高い製品やサービスの開発が増えておりますが、そのことがますます各社の想定範囲を超えた使用を招き、クレームやトラブルに繋がることも考えられます。このリスクをしっかりと受け止め、これからの品質設計や安全担保のあり方を見直すことが大切だと実感しました。今回のように、製品品質に関わる内容は、品質保証の業務に関わる方だけではなく化粧品開発に関わる多くの方に聞いていただくことで、製剤・容器・情報等の様々な観点からヒントが得られ、お客様が安心して使える化粧品開発の実現ができるのだろうと強く実感しました。また機会があれば各職場のメンバーと共に参加したいと思います。
SCCJセミナーレポート
第54回SCCJセミナー テーマ:クレーム/トラブルから学ぶ化粧品開発 ― 安心・安全のために必要な品質の設計と保証 ―
2019年 9月20日(金)(於:きゅりあん 講演数:6題 参加者270名)
講演① 化粧品による皮膚障害の最近のトピックス
藤田医科大学 ばんたね病院 総合アレルギー科教授
矢上 晶子 先生
皮膚科診療における皮膚障害の原因1位は化粧品であり、免疫器官である皮膚では予期せぬ作用機序で障害を起こすことがある。本講演では、石鹸に含まれた加水分解コムギによる即時型アレルギーや、美白化粧品の多重使用による脱色素班、防腐剤によるアレルギー性接触皮膚炎、香料による失神などの事例を講演頂いた。角質のバリア機能に異常がなくても免疫細胞が皮膚表面近傍まで到達しアレルギーを発症したり、隠れた食物アレルギーや複数の製品が関連することもある。また、これらの予防法としてパッチテストや連続塗布試験(ROAT法)の詳細、SSCI-Net(皮膚安全性症例情報ネットワーク)の活用も示された。
SSCI-Netは皮膚科医にて確定診断された精度の高い症例が登録されており、産官学の迅速な連携に取り組まれている。皮膚障害の症例、作用機序、治療の実際についての認識を一層深めることができた有意義な講演であった。
資生堂グローバルイノベーションセンター
植木 拓朗 氏
「全てのものは毒であり、毒でなくすものはただ量だけである」、すなわち「リスク(危険性)=ハザード(有害性)×曝露」であるとの基本概念に基づき、薬機法を中心とした法規制、不純物を含めた原料の安全性試験、配合濃度や使用部位、使用法、誤使用等を考慮した製品でのリスク評価、GVP省令に代表される販売後調査について、具体的な実施内容を講演頂いた。安全性評価の専門家ではない開発者にとっても、その全体像をレビューでき、品質保証の考え方を整理することができた。本年もα-ヒドロキシ酸の症例などが報告されており、動物実験が実質的にできない中で、その代替法やSSCI-Netの活用、使用条件も加えた評価など、化粧品の安全性をどのように担保していったらよいかを考える上で、大いに役立つ内容であった。
化粧品技術アドバイザー
小林 進 氏
安定性の優れた製品の開発は『安定性理論の理解と処方設計および製造現場への応用』、『過去のクレームの解析と原因究明』、『剤型に対応した安定性評価法(試験法)の確立と品質保証水準の設定』が三位一体となることによって可能となる。安定性に関する基礎理論の中で、乳化ではストークスの式やオストワルド熟成の考え方について、口紅ではワックスのオイルへの溶解性、有機概念図、IOB値等について説明いただいた。過去のクレームの解析では、特性要因図を作成し層別を行い、真の原因を究明することで再発防止に繋がること、剤型に対応した安定性評価法の確立では、剤型ごとの主な品質トラブルと想定しうるクレームを考慮した安定性試験および評価基準の設定について豊富な経験を基にノウハウを交えて解説いただき、とても有用な講演であった。
(株)トキワ
井上 隆 氏
化粧品は様々な環境で使用されるが、新製品開発設計段階でそれらのリスクを想定し、対処しておかなければ、「重い」「折れる・抜ける」「漏れる」「噴霧しない・出ない」「傷がつく」「剥がれる」などの製品クレームにつながってしまう。
本講演では、製品容器の観点から、どのような設計を行えばクレーム防止に繋がるかを細かく解説頂いた。化粧品容器は、剤型や処方特徴によって選択されるが、『機能』『芸術性』『使い易さ』の視点も重要であり、使いやすさについては、手にとった時のフィット感や重過ぎないような適正充填量の設定を考慮する必要がある。また、口紅容器では重りを入れて重量感を変えて高級感を出す場合もあるとのことであった。その他、ペンシル・口紅・スティック製品における折れ抜けの保証試験、ポンプディスペンサーの種類と選択、機密性評価、容器傷と印刷刷れの知見など、化粧品開発において参考となる非常に興味深い内容であった。
高橋化粧品技術相談所
高橋 守 氏
化粧品を取り巻く薬事規制は国によりさまざまであるが、特に欧州の薬事規制動向については十分に注意する必要がある。一方、欧州の規制動向はCMR物質(発がん性・変異原性・生殖毒性)であるか否かという判断に基づいており、その方針は極めて明確である。世界各国の薬事規制改定の潮流として、全体的に欧州型の規制になりつつあり、台湾では今まで含薬化粧品として取り扱われていた規制内容が、新たに特殊用途化粧品として改訂され、特定用途化粧品成分、使用禁止原料、色素規制、防腐剤規制等が欧州型に近づいている。一方、日本や韓国の薬事は独自の発展を遂げており、必ずしも世界の潮流とあっているわけではない。化粧品の処方を作る上で各国の薬事規制動向を的確に把握することは、回収事故等を回避するうえでは欠かすことのできない知識となる。本講演ではその知識の重要性を改めて確認することができた。
製品評価技術基盤機構 製品安全センター 参事官
吉津 兼人 氏
消費生活用製品は消費者の手元でメーカーが想定しなかった事故を度々引き起こす。本講演ではそのような事故事例を収集し、原因探索や原因究明手法の開発を日々行われている製品評価技術基盤機構(NITE)での事例紹介をいただき、リスクアセスメントの重要性について紹介をいただいた。モバイルバッテリーの発火事故、ガスコンロから衣服への着火事故、さらには幼児玩具での傷害事故などメーカー側が想定し得ていなかった事例が紹介された。これらの事故事例をもとに、特に日本と欧米におけるリスクアセスメントに対する発想の相違点を紹介いただき、安全の定義、すなわち安全とは許容不可能なリスクがないことであるという、現実的な安全の評価の仕方について学んだ。本講演からリスクの定義とリスクアセスメントについて正しく学ぶことができ、非常に有益な講演であった。
9月20日(金)に、きゅりあんで開催された「第54回SCCJセミナー クレーム/トラブルから学ぶ化粧品開発-安心・安全のために必要な品質の設計と保証-」に参加させていただきました。
今回は6名の講師の方々から「製剤の肌への影響」「化粧品ならではの容器のトラブルとその対応策」「使用状況を考慮した品質保証の考え方と安全性評価・安定性試験の実際」「日本と海外での規制の相違」等について、現場のリアルな状況や画像を交えてご講演いただきました。
普通は各社のクレーム・トラブル事例やそれを防ぐための製品設計の考え方は自社内にとどめることが多いかと思いますが、今回は講師方からご自身の経験を踏まえて様々な事例をご紹介くださったことで、とても臨場感のある内容となり、クレーム/トラブルを防ぐ製品開発のヒントがちりばめられている、とても充実したセミナーとなりました。そのため会場の参加者も皆、ノートを取りながら真剣に聴講していました。
また、今回は(独)製品評価技術基盤機構の吉津兼人氏から、モバイルバッテリーの発火事故や洗面化粧台の落下事故、幼児用遊具の安全装置不備による重大事故など、化粧品以外の製品での事故事例についてご紹介いただき、日常の中にこんなにも危険要素が多いということに改めて気づかされました。
さらに、講演終了後には講師の方々と直接意見交換ができる時間が設けられ、参加者はそれぞれ自分の現場での状況やその対応策について熱心にディスカッションされ、有益なアドバイスをいただいていました。
化粧品を含め、私たちの身近にある製品の品質設計やその保証は、これまでも十分考慮されてはいますが、消費者の想定外の使用(過度な使用量・保存場所等)によって危険な事故や障害が生じるリスクが高いということでした。昨今、お客様一人一人のニーズにこたえるために、化粧品を始めとして、オーダーメイドやカスタマイズ性の高い製品やサービスの開発が増えておりますが、そのことがますます各社の想定範囲を超えた使用を招き、クレームやトラブルに繋がることも考えられます。このリスクをしっかりと受け止め、これからの品質設計や安全担保のあり方を見直すことが大切だと実感しました。今回のように、製品品質に関わる内容は、品質保証の業務に関わる方だけではなく化粧品開発に関わる多くの方に聞いていただくことで、製剤・容器・情報等の様々な観点からヒントが得られ、お客様が安心して使える化粧品開発の実現ができるのだろうと強く実感しました。また機会があれば各職場のメンバーと共に参加したいと思います。
日本化粧品技術者会 広報委員 野村美佳(花王株式会社)
SCCJセミナーレポート
第54回SCCJセミナー テーマ:クレーム/トラブルから学ぶ化粧品開発 ― 安心・安全のために必要な品質の設計と保証 ―
2019年 9月20日(金)(於:きゅりあん 講演数:6題 参加者270名)
講演① 化粧品による皮膚障害の最近のトピックス
藤田医科大学 ばんたね病院 総合アレルギー科教授
矢上 晶子 先生
皮膚科診療における皮膚障害の原因1位は化粧品であり、免疫器官である皮膚では予期せぬ作用機序で障害を起こすことがある。本講演では、石鹸に含まれた加水分解コムギによる即時型アレルギーや、美白化粧品の多重使用による脱色素班、防腐剤によるアレルギー性接触皮膚炎、香料による失神などの事例を講演頂いた。角質のバリア機能に異常がなくても免疫細胞が皮膚表面近傍まで到達しアレルギーを発症したり、隠れた食物アレルギーや複数の製品が関連することもある。また、これらの予防法としてパッチテストや連続塗布試験(ROAT法)の詳細、SSCI-Net(皮膚安全性症例情報ネットワーク)の活用も示された。
SSCI-Netは皮膚科医にて確定診断された精度の高い症例が登録されており、産官学の迅速な連携に取り組まれている。皮膚障害の症例、作用機序、治療の実際についての認識を一層深めることができた有意義な講演であった。
座長 SCCJセミナー委員:(ライオン㈱ 伊藤武利)
講演② 化粧品の使用場面に合わせた品質保証に必要な観点 安全性評価 -原料、商品、販売後-資生堂グローバルイノベーションセンター
植木 拓朗 氏
「全てのものは毒であり、毒でなくすものはただ量だけである」、すなわち「リスク(危険性)=ハザード(有害性)×曝露」であるとの基本概念に基づき、薬機法を中心とした法規制、不純物を含めた原料の安全性試験、配合濃度や使用部位、使用法、誤使用等を考慮した製品でのリスク評価、GVP省令に代表される販売後調査について、具体的な実施内容を講演頂いた。安全性評価の専門家ではない開発者にとっても、その全体像をレビューでき、品質保証の考え方を整理することができた。本年もα-ヒドロキシ酸の症例などが報告されており、動物実験が実質的にできない中で、その代替法やSSCI-Netの活用、使用条件も加えた評価など、化粧品の安全性をどのように担保していったらよいかを考える上で、大いに役立つ内容であった。
座長 SCCJセミナー委員:(ライオン㈱ 伊藤武利)
演題③ 品質トラブル防止のための剤型別品質保証と安定性試験法の実際 化粧品技術アドバイザー
小林 進 氏
安定性の優れた製品の開発は『安定性理論の理解と処方設計および製造現場への応用』、『過去のクレームの解析と原因究明』、『剤型に対応した安定性評価法(試験法)の確立と品質保証水準の設定』が三位一体となることによって可能となる。安定性に関する基礎理論の中で、乳化ではストークスの式やオストワルド熟成の考え方について、口紅ではワックスのオイルへの溶解性、有機概念図、IOB値等について説明いただいた。過去のクレームの解析では、特性要因図を作成し層別を行い、真の原因を究明することで再発防止に繋がること、剤型に対応した安定性評価法の確立では、剤型ごとの主な品質トラブルと想定しうるクレームを考慮した安定性試験および評価基準の設定について豊富な経験を基にノウハウを交えて解説いただき、とても有用な講演であった。
座長 SCCJセミナー委員:(㈱日本色材工業研究所 佐藤正幸)
演題④ 製品クレームに対し新製品設計段階で実施しておきたい容器評価について (株)トキワ
井上 隆 氏
化粧品は様々な環境で使用されるが、新製品開発設計段階でそれらのリスクを想定し、対処しておかなければ、「重い」「折れる・抜ける」「漏れる」「噴霧しない・出ない」「傷がつく」「剥がれる」などの製品クレームにつながってしまう。
本講演では、製品容器の観点から、どのような設計を行えばクレーム防止に繋がるかを細かく解説頂いた。化粧品容器は、剤型や処方特徴によって選択されるが、『機能』『芸術性』『使い易さ』の視点も重要であり、使いやすさについては、手にとった時のフィット感や重過ぎないような適正充填量の設定を考慮する必要がある。また、口紅容器では重りを入れて重量感を変えて高級感を出す場合もあるとのことであった。その他、ペンシル・口紅・スティック製品における折れ抜けの保証試験、ポンプディスペンサーの種類と選択、機密性評価、容器傷と印刷刷れの知見など、化粧品開発において参考となる非常に興味深い内容であった。
座長 SCCJセミナー委員:(㈱日本色材工業研究所 佐藤正幸)
演題⑤ 化粧品の海外と日本の成分規制の相違高橋化粧品技術相談所
高橋 守 氏
化粧品を取り巻く薬事規制は国によりさまざまであるが、特に欧州の薬事規制動向については十分に注意する必要がある。一方、欧州の規制動向はCMR物質(発がん性・変異原性・生殖毒性)であるか否かという判断に基づいており、その方針は極めて明確である。世界各国の薬事規制改定の潮流として、全体的に欧州型の規制になりつつあり、台湾では今まで含薬化粧品として取り扱われていた規制内容が、新たに特殊用途化粧品として改訂され、特定用途化粧品成分、使用禁止原料、色素規制、防腐剤規制等が欧州型に近づいている。一方、日本や韓国の薬事は独自の発展を遂げており、必ずしも世界の潮流とあっているわけではない。化粧品の処方を作る上で各国の薬事規制動向を的確に把握することは、回収事故等を回避するうえでは欠かすことのできない知識となる。本講演ではその知識の重要性を改めて確認することができた。
座長 SCCJセミナー委員:(㈱資生堂 松井 隆)
演題⑥ 消費生活用製品の事故事例と安全対策 製品評価技術基盤機構 製品安全センター 参事官
吉津 兼人 氏
消費生活用製品は消費者の手元でメーカーが想定しなかった事故を度々引き起こす。本講演ではそのような事故事例を収集し、原因探索や原因究明手法の開発を日々行われている製品評価技術基盤機構(NITE)での事例紹介をいただき、リスクアセスメントの重要性について紹介をいただいた。モバイルバッテリーの発火事故、ガスコンロから衣服への着火事故、さらには幼児玩具での傷害事故などメーカー側が想定し得ていなかった事例が紹介された。これらの事故事例をもとに、特に日本と欧米におけるリスクアセスメントに対する発想の相違点を紹介いただき、安全の定義、すなわち安全とは許容不可能なリスクがないことであるという、現実的な安全の評価の仕方について学んだ。本講演からリスクの定義とリスクアセスメントについて正しく学ぶことができ、非常に有益な講演であった。
座長 SCCJセミナー委員:(㈱資生堂 松井 隆)