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キューティクル [cuticle]

毛髪の根元から毛先に向かって鱗(うろこ)状に重なり(紋理とよばれる)内側のコルテックス(毛皮質)を取り巻いて保護している組織のこと.毛髪は、外側から中心に向かって、キューティクル(毛小皮)、コルテックス、メデュラ(毛髄質*)の3層より構成されている(図1).キューティクルは色素のない透明な細胞からなり、1枚の細胞は厚さ約0.5〜1.0 mm、長さ約45 mmで、普通、健康な毛髪で1本あたり6〜8枚が密着して重なり合っている(図2).キューティクルの毛髪に占める割合は10〜15%で、硬質のケラチンタンパク質でつくられていて硬い反面、摩擦に弱くもろいため無理なブラッシングや乱暴なシャンプーによって、傷ついたり剥がれやすくなったりする.キューティクルは、透過型電子顕微鏡で拡大した微細構造の観察によりさらに3層に分けられる.一番外側からエピキューティクル(Epi)、エキソキューティクル(Ex)、エンドキューティクル(En)である(図3).
(1)エピキューティクル(epicuticle)
キューティクルの一番外側に存在し、ほぼ10 nmの厚さがあって、脂質とケラチンタンパク質より構成される.角層溶解性またはタンパク質溶解性の薬品に対する抵抗がもっとも強い層であり、硬くてもろいため物理的な作用に弱い.
(2)エキソキューティクル(exocuticle)
厚さ約100〜300 nmでシスチン含量の多い(総アミノ酸の約20%を占める)非晶質なケラチン層である.エキソキューティクルは、シスチン含量の違いによりさらに2層に分けられるが、上部(外側)はエキソキューティクル全体よりさらにシスチン含量が多くa-層とよばれ、その下部(内側)だけをエキソキューティクルとよぶ場合もある.a-層は比較的一定の厚さで均一にエキソキューティクル内で存在する.一方、エキソキューティクルの下部(内側)では不均一な形状でエンドキューティクルに接している.この層全体としては、タンパク質溶解性の薬品に対する抵抗性は強いが、SS結合を切断する薬品、たとえばパーマネント・ウェーブローション1剤に対してはダメージを受けやすい.
(3)エンドキューティクル(endocuticle)
厚さは約50〜300 nmと変化のある層である.エンドキューティクルは、上部(外側)ではエキソキューティクルと不規則な形状で接しているが、下部(内側)では、細胞膜複合体(CMC)と比較的均一に接している.この層は、エキソキューティクルとは対照的にシスチン含量が乏しいが、酸性や塩基性のアミノ酸が他のキューティクルより多く含まれるため、水による膨潤性がある.また、シスチン結合を切断するような薬品には抵抗性があるが、タンパク質溶解性の薬品にはダメージを受けやすい.図3を見ると、隣接したキューティクルにおいて、中央の黒い部分とその両側が白い線で構成された部分がある.これがCMCである.CMCは隣接したキューティクルばかりでなく、コルテックスの内部構造にも認められるように、細胞間の二つの単位細胞膜が融合してできたものである.その構造は3層になっており、中央の黒い部分はδ-層とよばれ、電子密度が高く、タンパク質層で形成され、おおよそ10 nmの厚さをもっている.また、その両側の白い線はβ-層とよばれ脂質からできている.近年、細胞膜複合体の重要性が見直されているが、キューティクルとキューティクル、またコルテックス内の細胞間を接着する働きを果しており、さらに毛皮質内の水分やタンパク質が溶出したり、逆に外部からの水分やパーマ剤、ヘアカラー剤などの薬液が毛髪内部の毛皮質に浸透し、作用するための通り道の役割をしている.
剥離
キューティクルがはがれ落ちることをさしていう.日本人の健康な毛髪の場合、キューティクルの枚数は毛髪1本に対して平均6〜8枚あるが、シャンプーやブラッシングなどの物理的刺激が加わるとキューティクルが1枚ずつはがれ落ちる.6〜8枚あったキューテイクルが剥離し減少するにつれ、毛髪はつやが失われ、パサつきが目立ち、なめらかさもなくなってくる.そして、キューティクルの枚数が2枚以下になると枝毛切れ毛といった問題が発生しやすくなり、毛髪本来の美しさが損なわれてしまう.
剥離の要因
(1)外的要因(毛髪のダメージ要因)
毛髪は抜けて生え変わるか、またはカットされるまでさまざまなストレスを受けつづける.たとえば、パーマ、ヘアカラー、ブリーチなどの美容施術ストレスや、紫外線、海水、ドライヤーの熱などの環境的ストレス、そして乱暴なシャンプー、ぬれたままでのブローなどの物理的ストレスなどである.なかでもキューティクルは、直接これらのストレスを受けるため複合的に累積した損傷を被ることになる.枝毛になった30 cmの毛髪を走査型電子顕微鏡で観察した結果、キューティクル枚数は根元から毛先に向かうにつれて減少していた(図4).
(2)毛髪の横断面形状
毛髪の横断面はかならずしも真円ではなく、楕円形やそれに近い不規則な円形をしているものも多く、このようないわゆる扁平毛の出っ張り部分は外からの負担もかかりやすく、キューティクルがはがれやすい.このため扁平毛の程度が進むにつれ枝毛が多くなり、長径の先端から亀裂が入ることがある(図5).はがれやすさを試験する方法超音波処理法とよび、1〜2 cmに切断された毛髪をイオン交換水の入った超音波洗浄器に入れ、水温をコントロールしながら一定時間処理する.その後、走査型電子顕微鏡で毛髪横断面を観察し、キューティクルの枚数を測定する.使用した毛髪は、あらかじめパーマ施術、ヘアカラー施術、熱処理、紫外線照射とそれぞれ別個に処理された毛髪で、未処理毛髪と比較されるが、それぞれについてキューティクルの剥離が増大することが報告されている.(植村雅明)

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