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フリーラジカル [free radical]
フリーラジカルと活性酸素
安定な原子や分子の最外殻軌道には電子が対になって存在しているが、この電子対のうちの一つが失われて不安定で活性化した状態にある化学種をさしてフリーラジカルという.紫外線は直接的、間接的にフリーラジカルを生じる.紫外線のエネルギーを吸収した光増感物質が励起状態になって、そのものがフリーラジカルとして働いたり、酸素あるいは水などと反応することにより活性酸素を生成したりする.活性酸素は酸素原子を含む反応性の高い化学種として定義される.活性酸素種は、一重項酸素(1O2)、スーパーオキシドアニオン(・O2−)、ヒドロキシルラジカル(・OH)、過酸化水素(H2O2)である.さらに広義の活性酸素としてはこれら以外に過酸化脂質ラジカル(LOO・、LO・)や一酸化窒素(NO・)などを含む場合もある.これら活性酸素種の中でフリーラジカルに分類されるのはスーパーオキシドアニオン、ヒドロキシルラジカル、過酸化脂質ラジカルである.
生体内でのフリーラジカル、活性酸素の生成
フリーラジカルを生成する生体内反応の一つとして光増感反応がある.光増感物質としてはトリプトファン、リボフラビン(ビタミンB2)、プテリン類、ポルフィリン類、NADH(還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)やビタミンKなどが考えられている.光増感反応とは光を吸収した増感分子から酸素分子にエネルギーが移動し一重項酸素を生成する反応や、増感分子の電子状態によっては電子が酸素分子に移動しスーパーオキシドアニオンを生成する反応のことをいう.一重項酸素を生成する反応を光増感反応のタイプII反応、スーパーオキシドを生成する反応をタイプI反応とよぶ.また、紫外線照射によるスーパーオキシドアニオン産生促進にはミトコンドリアの内在呼吸促進が関係している.活性酸素の産生経路を図に示した.三重項酸素分子(3O2)は電子受容体として働き、段階的に還元されていく.この三重項酸素分子に電子が一つ入ったもの、つまり1電子還元されたものがスーパーオキシドアニオンである.生成されたスーパーオキシドアニオンは、水溶液中で自発的にあるいはスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)により過酸化水素に変換される.過酸化水素は生体内の微量鉄イオン(Fe2+)や銅イオン(Cu+)のような金属が存在すると傷害性の高いヒドロキシルラジカルに変換される.
生体に対する作用
生体内で発生したフリーラジカルあるいは活性酸素は、その反応性の高さから、近傍に存在するさまざまな生体内物質と反応する.フリーラジカルあるいは活性酸素は細胞膜脂質や細胞膜タンパク質と反応し、酸化反応が進行すると、細胞死や細胞の機能不全が誘導される.また、フリーラジカルあるいは活性酸素はDNAの塩基と反応して二量体を形成したり、酸化修飾したりすることにより、結果的にDNA鎖を切断したり、DNA変異につながることも知られている.DNA損傷につながるフリーラジカルあるいは活性酸素の発生に関与する光増感分子には作用スペクトルの異なるさまざまな物質が考えられる.よって、UVA、UVBの両領域での光増感反応によりDNAが損傷されると考えられている.従来はフリーラジカルあるいは活性酸素の働きについて、生体に対する傷害的な影響のみが強調されてきた.しかし、生体に生成するフリーラジカルあるいは活性酸素はこうした非特異的な破壊作用以外にも、細胞内の酸化還元を制御することにより、転写因子を活性化させてさまざまな細胞機能を調節する働きがあることも最近の研究から知られてきている.スーパーオキシドアニオンは、ヒトの免疫反応において免疫担当細胞が体内に侵入してきた細菌を殺菌するツールの一つでもある.皮膚の表面では皮膚常在菌のもつコプロポルフィリンが光増感剤として働き、発生した一重項酸素が皮脂中のスクワレンを過酸化することが知られている.これがにきび(アクネ)の増悪因子の一つであるともいわれている.(畑尾正人、正木仁)