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毛髪の水分量 [water content of hair]
毛髪には通常状態において毛髪の重量に対し、一般に11〜13%の水分が保持されている.その量や役割は、1本の毛髪においても毛根部分と毛幹部分(頭皮から毛先までの部分)とでは大きく異なっている.生細胞である毛根部分では、通常の生体組織として生命活動を営む上での必須成分として水が存在するのに対して、角化の終了した死細胞である毛幹部分においては毛幹の感触、硬さ、髪型などの決定要因となっており、より化粧品学的に重要になっている.また、毛髪は外気の湿度によって、その物性値(伸長特性、曲げ特性など)が大きく変化することが知られており、この伸長特性の変化を応用して、毛髪は古くから湿度計に利用されていた経緯がある.官能評価毛髪中の水分は、毛髪のなめらかさ、つや、しっとりさなどの風合いに関連し重要な役割を果たしている.とくに、湿度の低下に伴って毛髪内部の水分量も減少するが、そのことによって生じる髪のうるおい感の喪失(パサつき)は認識されやすく、また髪の悩みとして関心の高いところである.実生活においては、冬場の乾燥した気候のもとで多く見られ、また、損傷の程度が高い毛髪ではより認識される傾向にある.最近の研究では、感触で認知されるパサつきは、毛髪内部水分量に関連した接触冷感や接触湿潤感(ひんやり感やしっとり感)などによって認知されているということがわかってきている.ヘアスタイル湿度が高い環境においては、毛髪内部に入る水分量が多くなり、毛髪内部に存在する水素結合に影響が出てくる.この水素結合は水分が毛髪内へ浸入することによって切断され、結果、ヘアスタイルの崩れが生じる.雨の日にヘアスタイルが崩れるのは、この現象が原因とされ、毛髪の損傷状態や温度によって異なるが、湿度が60〜70%以上になるとヘアスタイルの崩れが顕著になることがわかっている.測定法毛髪の水分量を測定するにはいくつかの方法がある.簡易のものとしては、一定条件下における毛髪水分量の変化を重量変化から求める重量法がある.分析化学的には毛髪から気化した水分を定量するカールフィッシャー法が、また物理化学的には高周波電流に対する毛髪の電気容量を測定する方法などがある.近年では分析機器の発展に伴い、水分量だけでなく水の存在状態についても得られる情報が多くなってきた.DSC(示差走査熱量)測定により水の存在状態が、NMR(核磁気共鳴)測定により水の運動性が、NIR(近赤外)測定により水の水素結合状態までがそれぞれ測定可能になっている.毛髪水分の存在状態毛髪への水分子の吸着には、毛髪を構成しているケラチン線維を構成する親水性の側鎖官能基が大きく関与している.毛髪に吸着している水には、ケラチン線維と会合して固定化された結合水と会合せずに自由に動く自由水が存在する.結合水は、毛髪内部コルテックス(毛皮質)中のミクロフィブリル間にあるシスチン含量の多いマトリックス(→細胞外マトリックス)領域に存在する.この領域は水と親和性に富むこともあり、水分子が水素結合によるネットワーク構造を形成し結合水として存在している.なお、毛髪と相互作用する結合水の中で、毛髪表面に吸着しているものをとくに吸着水という場合がある.最近の研究で、吸着水には運動性の異なる2種類があることがわかり、相対湿度60%以下では毛髪への単分子吸着である一次吸着水のみが、相対湿度60%以上で多層吸着である二次吸着水と単分子吸着である一次吸着水が存在することが報告されている.(川副智行)