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殺菌 [bactericidal、 bactericidal action]
皮膚上に存在し皮膚の状態に悪影響を与える微生物を殺して、微生物に起因する種々のトラブル(にきび、ふけ、腋臭(わきが)など)を防止・改善すること、および化粧品の製造現場で原料・容器・製造設備(工程)・充填設備・環境などの滅菌や消毒に関すること.これに対して防腐は、原料から製造・充填などの製造工程中に混入した微生物や、消費者が化粧品を購入し使い切るまでの過程で混入する微生物の生育を防止することで、化粧品の変臭、変敗や外観が損なわれることを防ぐ.殺菌と混同される言葉として滅菌、抗菌*があげられるが、厳密には微生物を死滅させることが殺菌であり、微生物を死滅させるかまたは完全に除去することが滅菌とされている.いずれも微生物学で使用される学術用語である.これに対して、抗菌は微生物学の分野では使われないが、実生活上、便宜的に使用されている単語で、有害な微生物を殺菌したり、増殖を抑制、阻害するという意味である.化粧品製造現場では、衛生的製造環境を維持するために加熱殺菌法と薬剤殺菌法が使用されている.加熱殺菌法は、常圧あるいは加圧下で加熱することによって、微生物を構成しているタンパク質などを変性し、生体の物質代謝を停止させることで微生物を殺菌する方法.具体的には高熱蒸気で設備を洗浄することである.一方、薬剤殺菌法とは、さまざまな殺菌剤で設備などを洗浄して微生物を殺菌する方法である.工程汚染菌のほとんどが薬剤に対する抵抗性の強い微生物、グラム陰性菌であることが多いので、水溶性の塩化ベンザルコニウム、グルコン酸クロルヘキシジンをアルコールに溶解した液体、あるいは酸やアルカリの溶液が工程洗浄に用いられている.このような薬剤を用いて工程を洗浄したときは、製品への混入を絶対に防ぐ必要があるため、殺菌後の薬剤の完全な洗い流しが要求される.化粧品には、配合された殺菌剤が皮膚に塗擦されることによって皮膚面を消毒し、皮膚に悪影響を与える微生物を殺菌して、皮膚状態を改善するものがある.このような化粧品では、殺菌剤には短時間で微生物を死滅させる効果が要求される.それぞれ有効な微生物種の範囲(抗菌スペクトル)が決まっているので、実際に使用するときには対象とする微生物別の殺菌剤を選択しなければならない.たとえば抗アクネ製品には、にきびの原因と考えられている皮膚常在菌の一つであるアクネ菌(Corynebacterium acnes)の増殖を抑制してにきびの発生や症状の悪化を緩和させる殺菌剤が、デオドラント製品には腋臭*(えきしゅう)の原因と考えられているCorynebacterium xerosisやAerobic coryneformsを殺菌・減少させる効果を有する殺菌剤が配合されている.化粧品に殺菌剤を配合する場合、化粧品中の成分や、皮膚タンパク質などと殺菌剤が反応して殺菌効果が低下するので、実用にさいしては注意する必要がある.代表的な殺菌剤として、塩化ベンザルコニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、トリクロロカルバニリドなどが使用される.(竹内明)