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水系エナメル [water based nail enamel]
ニトロセルロースを使用せず、溶剤の代わりに水をベースとしたネイルエナメル.しかし、一般的なのは被膜の主成分としてニトロセルロースを溶剤に溶解した、いわゆる溶剤系のネイルエナメルであり、市場の大多数を占めている.現在市場に流通している水系エナメルは、通常のネイルエナメルタイプ、塗った後に爪からはがして取るピールオフタイプ、石けんで容易に洗い流せる子ども向けのタイプなどがある.
特徴
使用時に溶剤臭がない、使用感がさらっとしている、火気に対しての危険が少ない、環境に優しい(使用場面と製造現場)、溶剤系と比較して爪の油分や水分を奪いにくく爪に優しいといえる.一方、水系化することにより、被膜成分の水への再溶解が生じやすくなったり、溶剤系に比べて被膜強度が不十分となるため、これらの課題を解決するためにさまざまな工夫がなされている.
使用される被膜剤
水系エナメルに使用される被膜剤(ポリマー)は大きく2種類で、水または水とアルコールに溶解する(微量の塩基性物質が添加される場合がある)水溶性の被膜剤と、水に不溶性のポリマーを水中に分散させた水系エマルション樹脂(ポリマーエマルション、ラテックス)である.水溶性の被膜剤を配合したタイプは、比較的容易に設計できる半面、塗布乾燥後の被膜(塗膜)が水に溶解しやすくなる場合があり、加えて液の粘性が高くなるのであまり多くの被膜剤を配合できない.したがって、子ども向けの製品に使用されることはあるが、通常のネイルエナメルのように数日間爪に塗ったまま使用されることが前提の場合は、エマルション樹脂が使われる.エマルション樹脂を配合したタイプは、水に不溶性のポリマーを分散させているため、水に強い被膜を形成しやすい反面、常温で均一な被膜を形成させるのに、成膜助剤を添加する必要があり、そのために瓶の中で長期保存すると、エマルション樹脂が凝集することがあるので注意が必要である.
エマルション樹脂
エマルション樹脂が被膜を形成する過程(成膜過程)を図に示した.エマルション樹脂は、いったん均一に成膜すれば、水にも強くて強靭な被膜を形成可能である.しかし、アイライナーやヘアケア化粧品に使用する比較的軟らかい樹脂は常温で均一な塗膜となるが、エナメルに必要なある程度の硬さをもった樹脂は常温ではポリマー粒子が融着を起こさず、均一な塗膜を形成しない.エマルション樹脂の融着が不完全な場合、被膜の強度が下がり、結果として傷がつきやすくなったり、爪から簡単にはがれてしまうので、常温で粒子の融着を起こさせ被膜を形成させる成分として、成膜助剤の添加が必須となる.成膜助剤に求められる性質は、水に溶解すること、皮膜形成時にはエマルション粒子の可塑剤となること、皮膜形成後には揮散して被膜に残存しにくいことなどである.一般には、エチレングリコールの誘導体やジエチレングリコールの誘導体が用いられる.また、ネイルエナメルは爪上に形成した被膜をいつでもきれいに除去できることが必須であり、これは塗料用のエマルション樹脂と大きく違う点の一つである.被膜の除去のためには、ネイルエナメルリムーバーに溶解しやすくする必要がある.このために、エマルション樹脂の分子量を小さくしたり、分子量の小さい樹脂とブレンドし、リムーバーに対する溶解性を高めている.(南孝司)