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クラフト点 [Krafft point]
界面活性剤の水への溶解性は、通常の物質とはきわめて異なる特異な挙動をとる.界面活性剤の水への溶解度を、温度を変えて測定すると、ある温度から急激に溶解度が大きくなる.この温度を発見者の名前にちなんで、クラフト点またはクラフト温度とよぶ.クラフト点以下の温度では、界面活性剤の溶解度は非常に小さく、ミセルは形成されていない.一方、クラフト点以上の温度では、界面活性剤の濃度を高めていくとミセルが形成され、さまざまな界面活性能が発揮される.図は界面活性剤の希薄溶液の状態を示す相図を示し、臨界ミセル濃度(cmc)曲線は溶解度曲線の溶解度が急激に立ち上がる点で交わっている.この点が厳密なクラフト点である.界面活性剤はcmc以上の濃度においてミセルを形成し、界面張力低下、乳化、可溶化、起泡、洗浄など独特の性能を発揮するが、クラフト点以下の温度では疎水鎖は水和した固体結晶(コアゲル)状態となっており、界面活性能は発揮されない.Tc曲線は、ゲル-液晶転移点とよばれ、水和した疎水鎖の融点である.Tcは界面活性剤の濃度とともに多少変化するが、cmc以上の希薄な領域では温度依存性はわずかなため、Tcをクラフト点とよぶこともある.すなわちクラフト点は水和した界面活性剤親油基の融点でもある.(鈴木敏幸)