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経表皮水分蒸散量 [transepidermal water loss]

体内から無自覚のうちに角層を通じて揮散する水分量のこと.TEWLと略記される.その現象を経表皮水分喪失、または不感蒸泄、不感知蒸泄などといい、単位面積(m2)あたり、単位時間(h)あたりの水分の重量(g)、すなわち、g/(m2・h)で表される.体温上昇、運動および精神的刺激などによって汗腺から分泌される汗とは区別される.正常な状態で、わずかな量の経表皮水分蒸散がある.皮膚の重要な機能の一つであるバリア機能を反映する指標として用いられる.たとえば、肌荒れをするとTEWLの増加が観察されるが、これから、肌荒れ時の角層のバリア機能の低下が示唆される.同様に、バリア機能の低下がある疾患では、経表皮水分喪失量は有意に上昇する.測定法には、開放系と閉鎖系の二つがある.開放系の測定法では、皮膚表面の水分の濃度勾配からFickの法則によって、TEWLを計算する.二つの湿度センサーが一定の間隔で皮膚表面上に位置するように設計された中空の円筒型のプローブを皮膚にあて、2点の水分量を測定する.一方、閉鎖系では、皮膚の表面に密閉式のプローブをあて、プローブ内の皮膚表面に乾燥した空気や窒素ガスを還流させ、回収したガスの含有水分量からTEWLを計算する.また、ガスを還流させない閉鎖系の方式もあり、その場合には、密閉プローブ内の水分量を連続的に測定し、その上昇速度から、TEWLを推定する.発汗を起こす条件では、正確なTEWLの測定はできない.また、とくに上記の開放系による測定では、皮膚表面の2点間のわずかな濃度勾配を測定するので、ごく弱い空気の流れの影響が出てしまう.したがって、発汗の起こらない22℃以下の恒温・恒湿・無風条件での測定が望ましい.こうした測定環境への順化の意味から、測定皮膚部位を露出させた状態でしばらく安静にさせ、その後、測定を行うことが重要である.さらにTEWLは、皮膚機能以外の生理条件からの影響を受けやすいため、計測値は時々刻々変化するので、その変化をしばらく追跡し、変動幅が一定の範囲になったことを確認して、測定値とすることが重要である.健康なヒトの正常皮膚のTEWLは、人種、年齢、性別によって違いが認められる.また、同一人を対象に測定すると、部位による違いがあり、腹部、背部、大腿部、上腕部のTEWLがおおよそ5 g/(m2・h)であるのに対し、頬では、約10 g/(m2・h)である.また、顔面の正常皮膚の角層水分量が高値を示すのに対し、正常でも四肢の皮膚は乾燥しやすく、角層水分量も低い値を示す.このように、正常皮膚で機能的な解析をしてみると、TEWLと角層水分量は平行して動くことが多い.一方、肌荒れした皮膚では、高いTEWLと低い角層水分量が特徴である.したがって、測定環境の影響が大きい測定指標であることも考え合わせ、肌荒れの誘起や予防、化粧品による回復効果を評価する目的のためには、左右の対照的な測定部位を設定し、片側をコントロールとして前後の測定値を比較することが望ましい.正常皮膚でも角層をテープストリッピングして、剥離していくと、角層のバリア機能は低下してTEWLが増加し、水分含有量の高い角層が現れる.その後、TEWLの測定を繰り返すと、TEWLは通常、ストリッピング直後から減少しはじめ、数時間でストリッピング前の値に回復する.この現象を、バリア回復とよんでおり、皮膚にはバリア回復能があるということができる.TEWLのテープストリッピング前、テープストリッピング直後、一定時間後の三つの値を用いて算出されるバリア回復率がバリア回復の指標である.たとえば、精神的なストレスを負荷するとバリア回復が低下すること、ある種の香りを吸入すると、バリア回復能が高まることが報告されている.(土屋徹)

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