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角層 [stratum corneum、 horny layer]
表皮を構成する4層のうち、最外層に位置するもの(図).角質、角質層ともいう.表皮には、角層のほかに、基底層、有棘(ゆうきょく)層*、顆粒層がある.通常はその存在に気づかないが、日焼けをするとむけてくることで認識できる.(→総論6章)
構造
扁平な角層細胞が重なったもので、細胞と細胞との間は角層細胞間脂質で満たされている.角層細胞が15層ほど重なって約10〜20μmの厚さの角層を形成しており、角層細胞と角層細胞間脂質とから構成される角層の構造はしばしばれんがとモルタルに例えられる.角層における角層細胞の層数は、部位によっても大きく異なり、頬などで比較的薄く約10層ほどであるが、もっとも厚い手のひらやかかとなどでは約50層に達する.機能生体の最外層に位置して外界との境界を形成している.とくに体内の水分や栄養分が体外へ逃げるのを制御し、外界からのさまざまな刺激が生体内に侵入するのを防ぐ.すなわち、角層バリアとして機能している.また、外界の乾燥した環境にもかかわらず、角層にはそれ自体に水分を保って、角層の柔軟性や表層のなめらかさを維持している.この働きを角層保湿機能という.動的組織としての角層角層は、ケラチノサイト(表皮角化細胞)の角化にしたがって形成される.角層そのものは、死んだ角層細胞の集合体であるが、表皮角化細胞に由来するさまざまな生理活性物質を含み、さまざまな酵素反応が起こっており、活発な代謝組織と考えられる.また、顆粒細胞*から角層細胞への移行、角層下層から角層上層への移行、最外層からの角層細胞の剥離は、一定のリズムで行われており(ターンオーバー)、細胞は絶え間なく生まれ変わっている.通常、健康な皮膚では、角層は垢(あか)となってはがれるのでそのようすに気づくことはないが、日焼けや肌荒れなどでは、まとまってはがれるので、いわゆる皮むけとして認知される.角層内の勾配角層下層から表層にかけては、水分、pH、イオンなど、さまざまな勾配が観察される.水分は、角層の下層では約70%ほどであるが、角層表層においては約20〜30%ほどに低下する.その間には角層の水分保持機能に大きく影響する勾配が形成されている(→角層保湿機能).pHは、角層下層では約7であるが、角層表層では約4.5〜6.5であり、いわゆる弱酸性に保たれている.これには、さまざまな電解質の分布が影響していると考えられる.生理活性物質、起炎物質角層中にはさまざまな生理活性物質が含まれている.インターロイキン-1などのサイトカインはその例である.また、炎症を起こしている角層では白血球遊走ペプチドが検出される.これには、血漿由来成分が角層で活性化して生成したペプチドや、ケラチノサイト自身が産生したケモカインなどが含まれる.代謝活性角層にはさまざまな酵素活性が検出される.タンパク質の分解にかかわる種々のプロテアーゼおよびそのインヒビター、角層細胞間脂質の生成にかかわる種々の脂質代謝酵素、ケラチンなどのタンパク質の修飾にかかわるペプチジルアルギニンデイミナーゼやトランスグルタミナーゼなどである.これらの多くは実際に角層の中で機能して、角層の形成に寄与している.また、種々のエステラーゼ活性も検出されており、この活性を利用して、経皮吸収薬剤の角層中の浸透や透過を制御する工夫も考案されている.(平尾哲二)