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角層水分量 [stratum corneum water content]
角層に含まれる水分量のこと.角質水分量ともいう.健康な角層では、角層重量あたり約20〜30%の水分が含まれるが、外界の環境湿度や角層の状態によって大きく変動する.約70%ほどの水分が含まれる生体内に比べて、生体外はきわめて乾燥した環境におかれている.生体の水分の喪失を制御しているのが角層である.角層の深部には生体内と同等の水分が含まれるが、表層に向かうに従ってその水分量は徐々に減少し約20〜30%となる(図).このように、非常に薄い角層の中にも水分の勾配が形成されている.最外層の角層水分量は、外界の環境湿度や角層保湿機能に大きく依存する.たとえば、外界が乾燥した環境であれば角層水分量は低下するが、天然保湿因子(NMF)や外部から供給された保湿成分が共存する場合には、角層水分量の低下は防止される.測定法角層水分量の測定は水分の化学的分析によって可能であるが、皮膚上においては電気的性質や光学的性質の測定によって行われることが多い.代表的な測定例として、高周波伝導度による角層水分量の測定をあげることができ、専用の測定機器も市販されている.電気伝導度が高ければ水分量が多いと判定される.高周波伝導度による角層水分量測定は瞬時に、皮膚を傷つけずに行えるという長所があり、多くの臨床場面での応用、化粧品の保湿効果の実証に広く活用されている.角層の光学特性測定による水分量測定の代表例としては、近赤外光スペクトルの測定がある.これは、水分の絶対量の測定のみならず、水分子の存在状態に関する情報を取得することができ、角層中に含まれる水分の役割の解明に役立っている.角層における水の性状水分子の運動性および機能から、水を結合水と自由水とに区別することができる.自由水とは自由に動きまわることのできる水分子の集合、結合水とは共存成分の親水性部分との相互作用により運動性に制約のある水分子の集合である.両者は、示差熱分析などの熱力学的方法、あるいは近赤外スペクトル分析などの分光学的方法により区別して検出することができる.角層中にも自由水と結合水の両者が存在し、自由水は喪失されやすく、結合水は角層の構成成分や線維の構築に影響されてその量は変化する.角層における水分の存在角層は角層細胞とそれらの間を満たしている角層細胞間脂質から構成されており、水分子は角層細胞中のケラチン線維とNMFに相互作用している.また、角層細胞間脂質のラメラ構造における極性基の部分にも水分子の存在が示されている.角層は自重の約3倍もの水分を蓄えることができる.入浴して膨潤した角層がちょうどその状態である.このような角層水分量を多くした状態の電子顕微鏡による観察に基づけば、角層細胞が著しく膨潤し、また角層細胞の間隙に水の貯留が観察されるが、ラメラ構造自体には大きな変化は認められないとの報告がある.したがって、角層の水分が変化したときには、おもに角層細胞中のケラチン線維とNMFに水分子が蓄えられ、角層の柔軟性に影響を及ぼしていると考えられている.角層水分量の減少と改善角層水分量が減少した状態の肌を乾燥肌という.外界の環境湿度に加えて、外部からの刺激(紫外線照射や刺激物質など)に対する応答によって、あるいは加齢やホルモンの変調などによって角層水分量は低下し、乾燥肌を生じる.乾燥は肌トラブルの大きな原因の一つであり、角層水分は皮膚を健康に保つために必須である.保湿剤の供給によって角層水分量を保持し、乾燥肌を改善することができる.(平尾哲二)