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アポトーシス [apoptosis]

細胞死の一つの形態.プログラム化された細胞死(PCD)ともいわれる.細胞死は、大きくアポトーシスとネクローシスに区別される.形態学的には、アポトーシスを起こした細胞の核は凝集、断片化するが、細胞膜がそれを包むように変化し、さらには細胞自体が断片化することにより、アポトーシス小体が形成されるという変化をたどる.そしてそのアポトーシス小体は、マクロファージや隣接する細胞に貪食されることにより、除去されるのである.生化学的には、アポトーシスの顕著な特徴であるクロマチンDNAの断片化が起こる.アポトーシスにおいては細胞の内容物はほとんど漏出せず、まわりの細胞は正常な状態を保つため炎症反応が起こらない.これに対して、ネクローシスの場合は細胞の損傷により、流出した内容物のために白血球が集まりその周辺に炎症反応が起きるのが特徴である. メカニズム アポトーシスの最大の特徴は、高度に制御された自死機構をもつ点である.近年、アポトーシスのメカニズムが分子レベルで明らかになりつつあり、これが線虫から哺乳類まで共通していることがわかってきた.アポトーシスの誘因には、紫外線のように物理的なものから栄養因子やストレスまでさまざまなものがあるが、これらの刺激が細胞内のカスパーゼとよばれる酵素を活性化することにより、細胞は不可逆的な死を迎える.カスパーゼは別名自殺酵素ともよばれ、アポトーシスの実行因子である.線虫では1個であるが、哺乳類では14種が知られ、アポトーシスを複雑に制御している.また、細胞にはアポトーシスを調節する因子としてBcl-2ファミリーとよばれる一群のタンパク質がある. アポトーシスと疾患 アポトーシスは基本的な生命現象に深く関与している.われわれのからだをつくる発生段階においても、指の間に水かきができてそれが消失する過程や、神経がいったん大量につくられてその後適正なサイズに落ち着くといったように、アポトーシスという現象はたんに細胞の自殺に必要なわけではない.このようなかかわりのため、その異常はただちに疾患に結びつく. 大腸がんをはじめとする多くのがん患者には、p53とよばれるタンパク質の遺伝子に異常が起きることが知られている.p53は正常ではアポトーシスを誘導するが、変異p53はその能力が低下している.全身性エリテマトーデスのような自己免疫疾患では、自己反応性のT細胞が出現し自分の組織を攻撃してしまうのだが、これは通常胸腺においてアポトーシスにより除去されるべきT細胞がなんらかの異常により生き残ってしまうために起きると考えられている.HIVのようなウイルス感染症においては、免疫を担当するT細胞がアポトーシスを起こし死んでしまうため、免疫不全に陥る.また、アルツハイマー病などの神経変異性疾患は、大脳の神経細胞がアポトーシスによって大量に死滅することにより引き起こされる.皮膚において毛包が退縮していく退行期は、アポトーシスの過程そのものである.(日比野利彦)

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