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女性ホルモン [female gonadal hormone、 female sex hormone]
主として卵巣から分泌される卵胞ホルモン(エストロゲン)および黄体ホルモン(プロゲステロン)をさす.これらは視床下部と下垂体の両方に作用し、性周期(月経周期)の時期に応じて刺激的あるいは抑制的に働く.エストロゲンはエストロン(E1)、エストラジオール(E2)、エストリオール(E3)の三つの分画があり、女性化作用はエストラジオールがもっとも強い.エストロゲンの分泌は卵胞刺激ホルモン(FSH)の上昇に比例して7〜15歳にかけて直線的に増加し、閉経後40歳を過ぎると徐々に減少しはじめ、閉経後数年で消失する.またプロゲステロンは、排卵後の黄体から産生、分泌され増殖した子宮内膜を変化させ、受精卵の着床に適した状態をつくる働きをもつ.プロゲステロンの濃度は初経後2年目ごろから増加しはじめ、数年で排卵性月経周期が完成する.
月経と女性ホルモン
月経周期における女性ホルモンの分泌メカニズムは非常に複雑である.卵胞期の前半にはFSHの分泌が高まり、卵巣の発育を促進する.卵胞期の後半にはFSHと黄体形成ホルモン(LH)がともに作用し、卵胞の急激な発達とエストロゲン分泌の急上昇をもたらす.排卵期に入ると卵胞が完全に成熟し、エストロゲン値がピークに達するとポジティブフィードバック機序によりLHの放出が引き起こされ、卵胞壁が破裂し排卵が起こる.排卵後は卵胞壁の細胞が黄体化を起こしてエストロゲンの第二のピークをつくると同時に、新たにプロゲステロンの分泌が始まる.このエストロゲンとプロゲステロンの分泌は約2週間で黄体の寿命が尽きると低下する.また、排卵前期にはエストロゲンのピークにより体温の放散が盛んになり、基礎体温は陥落する.一方、黄体期には分泌されたプロゲステロンが温熱中枢に作用して熱の産生を促進し、高温相が形成される.
妊娠と女性ホルモン
妊娠は女性ホルモンの分泌に大きな変動をもたらす.受精卵が着床すると絨毛性ゴナドトロピン(hCG)が分泌され始め、hCGは卵巣の黄体を刺激して妊娠黄体を形成させ、妊娠4〜8週までプロゲステロンとエストロゲンを分泌して妊娠を維持する役割を果たす.妊娠6週以降はプロゲステロンとエストロゲンの分泌は妊娠末期に向かって直線的に増加する.プロゲステロンは胎盤で合成され、子宮筋の安静や乳腺の発達に寄与し、一方エストロゲンは子宮筋の増大、産道の軟化、乳腺の発達、母体下垂体細胞中で産生されるホルモンのプロラクチン(PRL)分泌促進などに役立っている.(松永由紀子)