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アロマテラピー [aromatherapy]
もともとは芳香や芳香物質(基本的には天然精油やフローラルウォーター)により病気を治す療法のこと.現在は病気の治療よりも、芳香をかぐことがからだにいいというプラスイメージをもつことにより、心とからだのホメオスタシス(恒常性)を維持していこうという療法をさしている.実験中の爆発事故で負ったやけどをラベンダーの精油に浸すことで完治させたフランスの病理学者ルネ・モーリス・ガットフォセが、その後、芳香植物の精油研究に一生をささげ、誕生した芳香療法をアロマテラピーと名づけた.アロマテラピーとは、芳香を意味する“アロマ(aroma)”と、療法を意味する“テラピー(therapy)”をあわせた造語である.ガットフォセのほかに、同じフランス人であるジャン・バルネも、戦場で受けた傷や火傷の治療に精油による芳香療法を採用した.精油によるマッサージ技術を主体とする英国のアロマテラピーを確立したのは、マルグリット・モーリーであるとされている.アロマテラピーの基本は、①精油の芳香をかぐ、②精油を塗りマッサージを行う、③精油を加えたアロマバスに全身浴、または部分浴することでかぎ、皮膚に塗る、④ハーブティーとして飲む、⑤精油を服用する、などであるが、アロマテラピーの本流の欧州では、歴史的背景から国ごとにその基本が異なっている.たとえば、フランスはメディカルな服用がおもであり、英国は美容的なマッサージ志向が強く、ドイツは伝統的に薬草などの香りをかぐなどさまざまであるが、いずれも医師や有資格者による治療を意味するものとして存在している.これに対して、1985年にロバート・ティスランドが著した“アロマテラピー〈芳香療法〉の理論と実際”(原書名:The Art of Aromatherapy)の出版がアロマテラピーブームのきっかけとなった日本では、まだ歴史が浅いこともあって、日本方式といったものは確立されていないことから自己流のアロマテラピーが行われているケースが多いといわれている.海外諸国よりも自然志向が強いわが国では、天然のものは安全であるという誤った思想から、アロマテラピーにおいても精油をかぐ以外に、皮膚に塗ったり、服用するなどによってトラブルが発生しているケースもあり注意する必要がある.とくに服用に関しては医療としての安全性、有効性がいまだ確立されていない中では行うべきではないとされている.最近、医学の分野で注目されているものに、精神神経免疫学(psychoneuroimmunology:PNI)があるが、これは精神が自律神経系、内分泌系と免疫系を介していろいろな生理作用を生み出し、からだのホメオスタシスを維持しているという学問である.精神とは脳すなわち心の働きであるので、考え方、感じ方、イメージの描き方などすべての精神的な活動をさしており、“病は気から”といわれてきているが、精神的ストレス(不安、悲しみ)、心の状態が脳を介して自律神経系と内分泌系と免疫系に影響を与え病気になるというのである.たとえば、自分が治療のために医師を信じるというプラスイメージをもつことができるならば、病気が治癒する確率が上がるとか、プラシーボ(有効成分の入っていない偽薬)でも治癒効果が上昇するなどは、心の潜在力が活用されたものであって、一種の心理療法として例示することができる.アロマテラピーの場合、通常、アロマテラピーや精油がからだや心の安定によさそうであると信じることから、その行為が始まるとされている.香りは匂いの情報を受け取る嗅球を経由して脳にその情報が伝達され、からだや心の安定によさそうであると信じるプラスイメージをもつ状態になり、これが自律神経系と内分泌系と免疫系に影響を与え好ましい生理状態となるのである.精油の香り成分が直接影響を与えている場合もあるが、プラスイメージをもつことの影響のほうが実際の経験から述べるならば、多いと考える.なお、アロマテラピーの分野でよく使われている精油の作用はそれぞれの精油に含まれている成分によってさまざまであるので、間違って使用しないように注意することが肝要である(表).(→アロマコロジー)(浅越亨、奥田剛弘)