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皮膚生理 [skin physiology]
皮膚で起こっている生命現象全般の総称.皮膚は生体の最外層に位置し、生体と外界との境界を形成している.しかし、たんなる物理的な境界ではなく、さまざまな生命活動が営まれている.
生体を守る皮膚の働き
皮膚の面積は成人で約1.6〜1.8 m2、重さは体重の約8%に達することから、最大の臓器と考えられる.この皮膚という組織は、外界からの刺激から生体を守るという、生体の恒常性(ホメオスタシス)を維持するさまざまな役割を担っている.まずは皮膚の最外層である角層の働きである.角層保湿機能とバリア機能(→角層バリア)によって、生体からの水分蒸散を防ぎ、外界からの異物の侵入を物理的に防いでいる.角層のバリアを越えて侵入した異物に対しては、炎症反応を起こし表皮の増殖を盛んにさせ、あるいは免疫系が応答して異物を排除する反応を起こす.皮膚の弾力性は物理的な衝撃を和らげる働きを果たし、強い物理的な力が繰り返し加わるような部位では角層が厚くなってたこをつくって、その刺激を緩和しようと反応する.また、日光にさらされる部位では日焼けを起こしてメラニン色素の産生を促し、さらなる日光の暴露から生体を守っている.こうしたものが皮膚のおもな働きである.
全身の生理機能における皮膚の役割
皮膚では局所での反応だけでなく、皮膚を場として全身の生理機能が営まれている.
(1) 体温を調節する
ヒトは生命活動を営むためのエネルギーを、おもに食物の燃焼などによって得ているが、その一方で皮膚や肺から熱を放出し、体温を一定に保っている.皮膚はおもに発汗と血液循環によって、その役割を担っている.汗は汗腺から分泌されて皮膚表面を覆い、その気化熱によって皮膚表面温度を下げる.毛細血管は真皮を巡っており、皮膚に栄養分を供給しているばかりでなく、体温調節にきわめて重要な役割を果たす.体温や外気温が上昇すると、毛細血管が拡張して血流も増大し、皮膚からの放熱が促進されて全身の体温を下げようとする.逆に、外気温が下がると、毛細血管が収縮し皮膚には鳥肌がたって、体温の逃げを防ぐ.このように皮膚は、発汗や血液循環を制御することによって体温調節の一翼を担っている.
(2)刺激を感知して伝える
皮膚には外界の刺激を受容し、触覚、圧覚、温覚、冷覚、痛覚などの感覚を生み出す働きがある.これらの感覚は神経末端の受容器が刺激され、その刺激が神経線維を介して中枢に伝達されて生み出される.感覚の種類に応じて、刺激を受ける受容器や神経線維が役割分担している.また、これらの神経系は、一様ではなく敏感な部位では密に分布していることが知られている.
(3)皮膚の呼吸
皮膚は外気に直接接しており、ごくわずかではあるがガスの出入りがある.しかし、その量は肺呼吸に比較してきわめてわずかで、全身の呼吸における皮膚の寄与はほとんど無視できるものと考えられている.一方で、皮膚細胞においては、いわゆる組織呼吸は盛んに行われており、血流を介して得た栄養分と酸素からエネルギーを産生して活発な代謝が行われている.(平尾哲二、舛田勇二)