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真皮 [dermis]
表皮下層に位置する1〜2 μm程度の典型的な結合組織.線維芽細胞やマクロファージ、マスト細胞などの細胞成分およびコラーゲン、エラスチン、レチクリンなどの線維成分、プロテオグリカン類より構成されており、皮膚の弾力や強度に関与している(図).乳頭層、乳頭下層および網状層の3層から形成されており、表皮が真皮に入り込んだ凹凸を表皮突起*という.この表皮突起に挟まれた真皮上層部分を乳頭層、真皮下層部分を網状層といい、表皮突起の凹凸は加齢とともに平坦になっていく.乳頭層や乳頭下層は神経や細胞成分を多く含み、網状層は線維組織の密度の濃い強靭な結合組織である.
真皮を構成する細胞成分
(1)線維芽細胞[fibroblast]
真皮細胞の主成分で間葉系由来の紡錘形細胞であり、細胞小器官の一種であるゴルジ装置と粗面小胞体に富む中胚葉由来細胞である.コラーゲン線維(膠原線維)を構成するコラーゲンの前駆体、エラスチン線維(弾性線維)を構成するエラスチンの前駆体およびグリコサミノグリカン(酸性ムコ多糖)や細胞間接着因子を産生する.さらにプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)や阻害物質を分泌して、結合組織成分の生成と分解を制御している.
(2)マクロファージ(組織球)[macropha-ge (histiocyte)]
骨髄から、末梢血液中を単球として運ばれ、組織で浸潤して組織定着型の組織球になるもの(S-100タンパク陰性)と、真皮固有の組織球(S-100タンパク陽性)になるものがある.ゴルジ装置、滑面および粗面小胞体、リソソームに富んでいる.マクロファージの活性化により、取り込んだ細菌および異物の処理や、各種のサイトカインや活性酸素の放出による炎症作用などの免疫系の調節機能を担っている.
(3)マスト細胞[mast cell]
肥満細胞ともいう.紡錘系の細胞で、毛細血管や神経の周囲に多く存在する.トルイジンブルーやメチレンブルーでメタクロマジー染色(異染色)され、赤紫色に見える.細胞質内にある豊富な顆粒にはヒスタミン、ヘパリン、ロイコトリエン、キモトリプシン様プロテアーゼ、好酸球遊走因子(ECF)、好中球遊走因子(NCF)、血小板遊走因子(PAF)、TNF様の物質など多くの化学伝達物質が含まれている.細胞表面にある免疫グロブリンE(IgE)受容体が抗原抗体反応の刺激を受けると、こうした顆粒内の化学伝達物質が細胞外に放出され、アレルギーなどの炎症反応を引き起こす一因となる.
真皮を構成する線維成分
(1)コラーゲン線維[collagen fiber]
真皮の線維成分の90%を占めており、下層、乳頭層など真皮上層では線維は細く、垂直方法に存在している.直径は2〜15 μm.下層の網状層では太く、水平方向に交錯して存在し、発達したコラーゲン線維束を形成している.エオジンに濃染し、ファン・ギーソン染色で紅色、マロリー染色で青色に染色される.コラーゲンは線維芽細胞でコラーゲン前駆体(プロコラーゲン)として生成され、細胞外に分泌された後に、タンパク質分解酵素であるプロコラーゲンペプチダーゼによって分子量約3万のトロポコラーゲンとなり、分子間に架橋構造が形成されて、線維の形成がなされていく.コラーゲン分子は3本のα鎖からなり、らせん状構造体をとる.α鎖の分子構造の違いからいくつかのサブタイプが知られているが、真皮内のコラーゲンはI型コラーゲンが約80%を占め、III型コラーゲンが約15%を占めている.III型コラーゲンは細網線維を形成する.コラーゲン線維の合成には各種ホルモン、サイトカインが関与しており、一方、消化は好中球、組織球、線維芽細胞および上皮細胞から分泌されるコラゲナーゼなどが関与している.また、加齢に伴って細い原線維の占める割合が増し、その支持力が低下してくる.これが老人のしわやたるみの一因であると考えられる.
(2)エラスチン線維[elastic fiber]
コラーゲン線維間に存在する伸縮性のある線維.皮膚の弾性はエラスチン線維に依存しており、加齢や皮膚弛緩病などでエラスチン線維が減少するとたるみを生じる.その主成分はエラスチンで、線維芽細胞より分泌される分子量7万のトロポエラスチンがリジルオキシダーゼによってデスモシン、イソデスモシンとなって架橋を形成する.直径は1〜3 μmで、ヘマトキシリン-エオシン染色では薄いピンク色に染色され、オルセイン染色では黒褐色、Weigertのレゾルチンフクシン染色では濃青色に染色される.エラスチン線維は乳頭層では表皮基底膜に向かって垂直に走り、乳頭下層では上下左右に交錯している.網状層ではコラーゲン線維の間にほぼ均等に、太く並行に走っている.周囲にはマイクロフィブリルが認められ、神経や血管の基底版とも結合している.
(3)基質[ground substance]
細胞や線維の間を埋める成分で、有機成分、血漿タンパク質、電解質や水などからなる.主成分はプロテオグリカンと糖タンパク質である.プロテオグリカンは多価アニオン多糖類であるグリコサミノグリカンがタンパク質と結合したもので、分子量10万〜100万の大きな分子である.また、真皮のグリコサミノグリカンの主成分はヒアルロン酸とデルマルタン酸で、コンドロイチン硫酸(デルマタン硫酸)やヘパラン硫酸も存在する.なお、ヒアルロン酸は皮膚中の水分保持に重要な働きを担っている.一方、糖タンパク質には線維芽細胞由来のフィブロネクチン、上皮細胞由来のラミニン、軟骨細胞由来のコンドロネクチンが含まれている.フィブロネクチンはフィブリンやコラーゲンおよびインテグリンなどと結合して、細胞の分化、増殖を誘導している.(片桐千華)