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唇 [lip]
口唇の赤唇縁、赤く見える部位のこと.唇は2種類の重層扁平上皮(表皮角化型と非角化型)で構成されており、通常の皮膚とは異なった特徴をもつ.表皮は厚いが角層が薄く、汗腺を欠いている.またメラニン色素を欠くか、きわめて乏しいのが特徴である.また、通常皮膚の脂腺では毛、毛包ともに存在しているが、唇の場合は成人の半数近くに毛包を欠如する独立脂腺が認められている.(→総論8.1節)
構造
上唇は鼻唇溝、下唇は頤(おとがい)唇溝を境として、鼻、頬、頤に接し位置している.解剖学的には皮膚部、赤唇縁(紅唇縁ともよばれる)、粘膜部で構成されており、一般に “くちびる”とよんでいる部位は赤唇縁のこと.皮膚部と赤唇縁は顔表面に露出している部位で、その境界は明瞭であるが、赤唇縁と粘膜部との境界は不明瞭である.皮膚部では角化した表皮、毛、毛包、脂腺、汗腺が存在し、表皮が薄いほかは通常の皮膚とは変わりがない.赤唇縁は、表皮は厚いが角層がきわめて薄く、汗腺(エクリン汗腺)を欠いている.またメラニン色素も欠くか、きわめて乏しいのが特徴である.また、成人の半数近くに毛包を欠如する脂腺(独立脂腺)が認められる.粘膜部は重層扁平上皮*からなるが、角化されておらず、角層、顆粒層は存在しない.なお、上皮の下に粘膜固有層があり、口唇腺が存在している.
表面形態(surface configuration)
唇の表面には多数の縦じわが存在しているが、これは溝の一種であり、赤唇溝とよばれ、唇の動きに順応する大切な役割を果たしている.またしわとしわの間には荒れに伴って減少、消失が認められる凹状の形態が多数存在しているが、この凹状の形態は唇の荒れに伴い、消失することがある.
色
唇の色は赤く、これはヒト特有の状態である.唇が赤い理由として、角層が非常に薄く、有色細胞を欠き透明度が高いこと、そして表皮直下には背の高い乳頭が多数存在し、そこに多くの毛細血管が侵入しているため血液が透過して見えることなどがあげられる.そのため、血液の状態がそのまま唇の色に反映される.たとえば、貧血状態では赤みが薄くなり、チアノーゼのように血液中の酸素が欠乏している状態では暗紫色に変色するため、唇の色から健康状態を判断することができる.なお、加齢とともに赤みが減少し、くすみが認められ、血流の低下がくすみの一因と考えられている.
生理(physiological property、 physiology)
唇は口腔粘膜から皮膚に至る移行帯をなしており、皮膚に比べて、角層が薄い、天然保湿因子(NMF)が少ないなどの要因により荒れやすい部位とされている.また、唇にはメラニン色素が少ないため、紫外線の影響を受けやすいと考えられている(→総論8.1.2項).唇は皮膚に比べて敏感な部位なので、日ごろからの手入れが大切である.
トラブル
唇のおもなトラブルは唇の荒れであり、体調や乾燥などさまざまなことから起こる.荒れの症状としては乾燥、皮むけ、切れがあり、場合によっては疼痛(とうつう)や炎症を伴うこともある.この炎症後にはしばしば色素沈着が起こることがある.また加齢に伴う変化として、唇の色の赤みの減少が起こる.高齢者には上唇周辺の皮膚から唇にかけてしわの形成が認められることもある.
荒れ(chapping)
荒れの原因としては飲食やなめるといった物理的な刺激、歯磨き粉などの化学的な刺激があげられ、また紫外線、乾燥、体調不良などからも唇荒れは生じやすい.唇の荒れの症状は、初期ではかさかさと白く乾燥し、硬くなっていく.ひどくなると、亀裂や皮むけといった症状も観察される.上唇よりも下唇が荒れやすく、とくに粘膜との境界部が著しい.この部位に大きな皮むけがみられるのも唇荒れの特徴である.季節ではとくに冬季が荒れやすいといわれている.また唇はメラニン色素が少ないことから紫外線に対する防御能が小さいため、紫外線量の多くなる季節、場所では影響を受けやすくなると考えられている.その一方、唇のターンオーバーは3.5日と皮膚に比べ非常に速いサイクルで行われる.したがって、荒れの回復は皮膚よりも速いと思われる.
トリートメント(treatment)→リップケア
加齢変化(aging)
唇は加齢とともに形状や性状が著しく変化する.幼児では鼻と口とをつなぐ人中の彫りがはっきりしているため唇がめくれあがった形態をしている.しかし、年齢とともに人中の彫りが浅くなるため、唇自体の厚みがなくなり、平板化した形態に変化する.また皮膚と赤唇縁との境界が不明瞭になるため、口元の印象が薄くなってくる.このような変化は、唇を支えている筋肉、隣接している皮膚、そして骨の変化に影響を受けて起こる.50、60代以降になると上唇周囲に縦方向の深いしわが多数出現し、それは唇まで進み、外見的に老齢の印象が強くなってくる.また、唇の表面の角層細胞面積は加齢とともに増加する傾向にあり、50代以降では幼児の約1.47倍の大きさとなる.角層のターンオーバー速度は皮膚の場合と同様に唇においても加齢とともに低下していると考えられる.なお、唇の色は加齢とともに赤みが減少し、いわゆるくすみが認められてくる.(引間理恵、南孝司)