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爪 [nail、 unguis]
毛髪と同様に表皮の角層が変化してできた付属器官.手指、足指の先端の背面に存在する.非常に硬く、指先を保護するだけではなく、手指ではものをつかむ、足指では歩く、からだをささえるなど、指先に力を入れるときに重要な役割を果たしている部位である.一般に爪とよんでいる部位は爪甲*(そうこう)をさし、主要物質はケラチンで、硬ケラチン(ハードケラチン)とよばれている.(→総論8.2節)構造指背面にある半透明で平板上のものを爪甲という.爪甲の下方部にある半月状の乳白色の爪半月*(そうはんげつ)は、完全に角化していない新しい爪である.皮膚内に隠れている部位は爪根*(そうこん)といい、爪根には爪母*(そうぼ)という爪甲を形成する重要な器官がある.また爪甲を囲んでいる皮膚を爪廓*(そうかく)とよび、爪根を上から覆っている皮膚を後爪廓*(こうそうかく)という.この後爪廓から爪甲を覆っている薄い皮が爪上皮*(あま皮)である.また、爪甲をのせている皮膚は爪床*(そうしょう)といい、爪甲の成長とともに伸び、爪甲の発達方向を決定する組織である.
かたち
爪はもともと硬いケラチンで形成されているため、強い刺激を与えることなく健康状態が良好であれば変形することがない.しかし、先天的な爪の異常、全身的な疾患、爪周辺部に皮膚疾患がある場合、また物理的、化学的な刺激を爪や爪を形成する爪母や爪母上の皮膚に与えた場合には、変形することがある.具体例として匙状爪(さじじょうづめ)や横に細かい溝ができる横溝、ばち爪などがある.また、高齢者では爪甲表面にたくさんの縦じわが認められることがある.全身的な疾患があればその疾患を治癒することにより、つくられた爪の形状は回復するが、爪母がいったん破壊されてしまうと爪が変形したままとなる.
色
爪甲自体が無色透明であるため、その下にある爪床内の血管が透過されて見える色のことをいう.つまり、爪甲の色調の変化は血流状態を反映している.正常な爪は光沢のある薄いピンク色をしているが、貧血に伴い赤みが低下することがある.このほか、ネフローゼ症候群では白色化することや、メラニン色素の沈着により黒色化することがある.また、長期的なネイルエナメル使用により黄変することもある.
成長
爪は爪根にある爪母の細胞が分裂してつくられ、上へ伸びていく.爪が伸びるさい、爪と接触する爪床は爪の伸長とともに伸びていき、爪が指先から離れるときに分離される.爪は日々成長しており、平均して1日あたり約0.1〜0.5 mm伸びるとされている.その速度は使う指ほど速いといわれ、また子どもや若者のほうが高齢者に比べ速く、年齢以外にも、季節、栄養状態、妊娠などの状況によっても異なる.なお、足よりも手の爪のほうが速く伸びるという報告がある.
加齢変化(aging)
加齢に伴い、爪は伸長速度が遅くなる、硬くなる、変形するといった状態が認められるようになる.爪の伸長速度の遅延は、皮膚と同様に爪甲の角化細胞のターンオーバーの遅延が考えられている.爪の硬さについては、乳児は非常に爪が軟らかいのに対し、老人では非常に硬くなり、もろくなる.これは加齢とともに爪中の細胞間脂質であるコレステロールおよび硫酸コレステロールが減少し、この減少が結果的に細胞間接着をもろくし、また保湿能の低下をもたらし、その結果硬くなると考えられている.また、老人の爪甲表面には、縦じわが形成されていることが多いが、これは爪甲の下にある爪床の萎縮に伴う現象であると考えられている.
異常(disorder)
爪の異常として、変形、色調、爪質の変化などがあげられる.それらの要因は、先天的なもの、後天的なものに分類される.先天的なものとしては乳児の匙状爪などがある.後天的なものには、全身疾患、爪周辺の皮膚疾患、外因的な影響に伴って誘発されるものなどがあげられる.なかでも全身疾患による爪の変化には、ばち爪や匙状爪、爪甲層状分裂などがあり、どの指にも異常が認められる.皮膚疾患および外因的な影響であれば、特定の指にのみ認められる.
トラブル
ネイルエナメルやネイルエナメルリムーバーを長期に使用することにより、爪がもろく、変色する、つやがなくなるといったトラブルが見られることがあり、おもに、折れ、二枚爪(爪甲層状分裂症)、黄変が起こる.爪の水分含有量が少ない場合に物理的な力が加わると、爪は折れやすくなる.ネイルエナメルやネイルエナメルリムーバーの長期使用で折れやすくなるのは、それらに含まれる有機溶剤により爪の脂質が脱脂され、水分保持能が低下することが原因と考えられる.折れや爪甲が層状にはがれる二枚爪も同様の状況が起こっているところに力が加わったことによって生じる.(→ネイルケア)
黄変(yellowing)
爪甲表面が黄色く変色する現象で、爪トラブルの一種である.ネイルエナメルを長期的に使用しつづけることから起こる.その原因として、一つはネイルエナメルの成分である色材の吸着、染着によって生じるものが考えられている.またネイルエナメル成分であるニトロセルロースの亜硝酸と爪の構成成分であるケラチン(チロシン、トリプトファン)とが反応することによって生じる化学的な反応も一因と考えられている.最近ではニトロセルロースを使用していないネイルエナメルや吸着、染着しにくい色材が開発されている.黄変防止には、このような黄変に配慮されているネイルエナメルを選定することや、色材が吸着、染着しないために、ベースコートを塗って爪を保護することが大切である.(引間理恵)