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皮膚色 [skin color]
皮膚の色調に関与する因子としては、メラニン、ヘモグロビン、カロテンなどがあり、人種、年齢や個人差が大きい.さらに、健康状態やストレスなどの情動によっても変化する.もっとも大きな影響を与えるのはメラニンであり、通常は基底層にあって黒褐色の色調をあたえるが、ときに真皮にあって青色調を示す.これが蒙古斑である.
皮膚の分光特性(spectral reflectance distribution of skin)
皮膚の色特性を表す可視光の各波長ごとの反射率で、分光測色計により計測される.1939年に計測された人種別の肌色の分光特性を示す(図1).ここから導き出される、人種による肌色の分光反射率曲線の違いは肌の色素成分であるメラニンおよびへモグロビンによる光の吸収により説明される.金髪の白人と茶髪の白人の分光曲線は、500〜600 nmの間にオキシヘモグロビンを主体とした血液由来の顕著な吸収が見られる.一方、メラニン顆粒を多くもつ黒人ではメラニン色素による吸収が支配的であり、血液由来の吸収は隠されている.このことからも、メラニンとヘモグロビンの相対的なバランスによって、肌色が多様となることが理解できる.皮膚の反射スペクトルは皮膚のメラニンやヘモグロビンと大きく関係するため、その数値からそれらの量を推定することができる.方法としては皮膚の反射スペクトルの逆数の対数を求めることで皮膚の吸光度スペクトルを算出し、それを皮膚内の色素の吸収スペクトルの足し合わせと考えることで、皮膚の吸収スペクトルに一致する色素成分量を算出するものである.具体的には、500〜700nmの波長範囲において皮膚の吸光度スペクトルを対象にしたメラニン、オキシヘモグロビン、デオキシヘモグロビンの吸収スペクトルによる重回帰分析では、皮膚の吸収スペクトルとほぼ一致させることが可能であり、3者の量を推定することが可能である.
日本人の皮膚色
日本人の皮膚の分光特性を図2に示す.日本では、皮膚の色調を科学的に測定する方法としては、JISに準拠した分光測色計が用いられる.いわゆる色白といわれる皮膚は全波長域で反射率が高く、548nmと578nm近傍にオキシヘモグロビンに対応する吸収が見られ、メラニンの吸収が少なく表皮層の透明性が上がり、血液の影響が強く現れて一般にピンク色に感じられる.逆に色黒の皮膚は全波長域で反射率が低く、血液のヘモグロビンの影響があまり現れない.
表し方
皮膚色の表し方としてはさまざまな表色系が用いられる.代表的な皮膚の表記法としては光の三原色(赤、緑、青)に対して三刺激値をもとに制定された標準(CIE-1931XYZ)表色系、知覚的に等色差性をもったL*a*b*表色系、色の三属性を用いたマンセル表色系などがある(→表色系).皮膚の色においては、マンセル表色系を用いて色相(H)、明度(V)、彩度(C)の3要素に分けて論じられることが多く、日本人では色相で0〜10 YR(YRはYellow Redの略)、明度で5〜7、彩度で3〜5程度の値をとる.また、日焼けなどの皮膚色の変化については、L*a*b*表色系を用いて、皮膚の黒化の度合いはL*、炎症の程度はa*の変化で論じられることが多い(→皮膚明度).日本人は白人に比べてメラニンの吸収が強く、黄色っぽい皮膚で一般に黄色人種といわれる.日本人の肌色をマンセル座標に表示すると、図3に見られるような分布を示し、紫外線の強い夏では明度が低下し、色相は赤による.一般に皮膚色は加齢とともに変化し、色相は赤から黄の方向に移り、明度は低下する.(1)CIE(標準)表色系 (CIE、 standard colorimetric system)1931年に国際照明委員会(Commision International del' Eclariage)において国際的な表記法として採用され、X、 Y、 Zの三刺激値で色を表現するもの.わが国においてもJISに“2度視野XYZ系による色の表示方法”として収録されている.(2) L*a*b*表色系(L*a*b*system)正式の名称は、CIE1976(L*a*b*)表色系.知覚的に等色差性をもった表色系であり、三刺激値X、 Y、 Zから次式によって変換することができる.L*a*b*表色系では、明度をL*、色相と彩度を示す色度をa*、 b*(a*、 b*は色の方向を示しており、a*は赤方向、−a*は緑方向、そしてb*は黄方向、−b*は青方向を示す)で表す.なお二つの異なる色、L*1、 a*1、 b*1とL*2、 a*2、 b*2との色差DEは、次式から求められる.(3)マンセル表色系(Munsell color sys-tem)物体の色の見えを、色の三属性である色相(hue)、明度(value)、彩度(chroma)をそれぞれH、 V、 Cで表し、尺度化した表色系.マンセル表色系でHV/Cと色を表示する.たとえば、肌色は5 YR 6/3.8(色相:5 YR、明度:6、彩度:3.8)真っ赤な口紅の色は5 R 4/14(色相:5 R、明度:4、彩度:14)などになる.
測定装置
測定には、JISに準拠したハンディ型の色彩計もしくは分光測色計が用いられる.分光測色計では各表色系における測色値とともに分光反射率特性を計測することができるのに対して、色彩計では測色値のみの計測となる.ただし、分光測色計はより構造が複雑となり高価なので、計測用途により使い分けるのが妥当である.皮膚は半透明体であるため計測時の照射光が皮膚内を透過して外に漏れ出し、機器によっては低い反射率を示すことがあるので(エッジ効果)、機器は受光範囲より大きめに照射光が設定されているものを選定することが必要である.(日比野利彦、舛田勇二)