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分散 [dispersion]
粒子が異なる媒質中に散在する現象.分散状態にあるものを分散系といい、分散している物質を分散質、媒質を分散媒とよぶ.また、粒子の大きさが、約1 μm(10−6 m)〜1 nm(10−9 m)の範囲にあるものをとくにコロイド分散系という.コロイド分散系は粒子が微細であるため、目視では均一に見え、分離や沈降も生じないが、個々の粒子は分子の集合体である.コロイド粒子より大きな粒子の分散系は粗大分散系であり、コロイド次元より小さな粒子(すなわち分子)の分散系は、真の溶液である.分散系は、分散質、分散媒がそれぞれ気体、液体、固体のいずれかをとりうるため、その組合せによりさまざまな呼称がある(表).気体に液体または固体粒子が分散したものはエアゾール(エアロゾル)、液体に異なる粒子が分散したものはエマルション、液体に固体粒子が分散したものはサスペンションとよばれる.サスペンションで粒子がコロイド次元のものはとくにゾルとよばれる.
特徴
分散系の特徴は粒子の大きさで系の性質が異なることがあげられ、とくにコロイド分散系に見られる特徴的な性質は、ブラウン運動やチンダル現象が観察される点である.ブラウン運動は分散粒子が絶えず不規則な動きをしている現象で、チンダル現象は分散系に入射した光が粒子によって散乱されるためにその光路が輝いて見える現象である.
生成
分子やイオンを凝集させて微粒子とする凝集法と粗大粒子を微粒子にする分散法がある.凝集法には化学反応によって不溶性の物質を生成させる方法や、溶液の温度を変化させたり別の溶媒を添加したりして溶解度を下げて微粒子を生成させる方法がある.一方、分散法には粉砕器(ボールミル、コロイドミル、ロールミルなどがある)を用いて機械的に粉砕する方法、超音波振動を用いて分散させる方法、アーク放電により金属微粒子を得る方法、電荷を失って凝集した沈殿物に、解膠剤(かいこうざい)を加えて粒子に電荷を与えて再分散させる方法がある.
安定化
分散系のうち、会合コロイド(ミセル)や分子コロイド(溶液)は熱力学的に安定であるが、分散コロイドは熱力学的に不安定である.なぜなら、分散質である微粒子と分散媒との間には界面張力(界面自由エネルギー)が存在するため、表面積の大きな分散系はエネルギーが高く、凝集により界面の面積を小さくしようという力が働くからである.分散系の安定化は、この凝集力を弱めるための反発力を付与することである.粒子間に働く反発力には、静電的なものと高分子吸着層の立体保護作用とがある.静電的な反発にはDLVO理論が適用される.二つの粒子間にはロンドン-ファンデルワールス引力(VA)とよばれる引力がつねに働いている.ここで、AはHamaker定数、aは粒子半径、Hは粒子表面間距離である.一方、表面が荷電している粒子のまわりには電気二重層形成され、粒子が接近すると静電的な反発ポテンシャル(反発力)VRが働く.ここで、εは分散媒の誘電率、ζは粒子の表面電位である.ここで、nはイオンの濃度、eは電気素量、kはボルツマン定数、Tは絶対温度である.粒子間に働く力が引力となるか反発力となるかは両者の和(VT=VR+VA)で示される(図1).静電的反発力が強ければ曲線VTの山(Vm)は高くなり、粒子どうしが近づくと反発力が働き、このエネルギー障壁に打ち勝たなければ凝集しない.エネルギー障壁(Vm)が熱運動によるポテンシャルkTより十分大きいときは凝集に対して安定となる.また、エネルギー障壁がkTと同じ程度以下になると粒子どうしが凝集する.このほか、粒子表面に図2に示すような吸着層(高分子、界面活性剤など)があると、吸着層の重なりに起因する反発力(立体保護作用)が生じる.このような効果は、吸着層の重なった部分の高分子濃度が高くなり溶媒が侵入を促して、浸透圧効果により反発力を生じさせる.(鈴木敏幸)