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毛髪 [hair]
種類
毛髪は毛髄質(メデュラ)の有無、メラニン色素の有無によって、産毛(毳毛)、軟毛、硬毛(終末毛)に分類される.軟毛と硬毛の中間にある毛髪を中間毛とよぶこともある.また、1 cm以上のものを長毛、1 cm以下のものを短毛と毛髪の長さによって分類する場合や、毛髪の形状により、直毛、波状毛縮毛(毬状毛)に分類する場合もある.
(1)産毛(毳毛)(lanugo hair)
毛髄質もメラニン色素もほとんど含まない毛で、多くは生まれてしばらくすると抜けていく.長さも短く、太さも20〜30 μmと細い.胎児および新生児のものを産毛、その後のものを毳毛と区別する場合もある.毛の表面はほかの太い毛に比べて粗いとされ、毛根および毛幹とで表面の大きな違いは見られない.
(2)軟毛(vellus hair)
毛髄質がなく、メラニン色素をほとんど含まない、短くて軟らかい非常に繊細な毛で、皮膚の広い部分に分布する.男性型脱毛症の場合、硬毛の軟毛化が外見上もっとも顕著な変化である.
(3)硬毛(終末毛)(terminal hair)
毛髄質もメラニン色素も有する毛で、通常、ヒトの髪の大半を占め、直接肉眼で容易に観察することができる毛をいう.頭毛のほか、眉毛、まつ毛、ひげ、腋(わき)毛、陰毛、大きな体毛も硬毛である.
(4)直毛(straight hair)
毛の断面が円形であるものをいう.直毛は表面の形態により、硬毛と滑毛に分類される場合もある.
(5)波状毛(wavy hair)
毛の断面が楕円形で、長軸と短軸の長さが異なるため、波打っている毛を波状毛とよぶ.
(6)縮毛(毬状毛)(curly hair)
毛の断面が正円でなく、しかも毛包自体が皮膚の中でわん曲しているため、ねじれている毛を縮毛(毬状毛)とよぶ.
構造(→総論8.3節)
皮膚の外に出ている毛幹と皮膚の内部に埋もれている毛根とよぶ部分とに分けられ、毛根を包んでいる部分を毛包とよぶ.毛包には真皮上層で皮脂腺、アポクリン汗腺、立毛筋が付属している.また、毛髪の組織全体は細い血管(毛細血管)に覆われている.
(1)毛幹(hair shaft)
中心部の毛髄質、それを取り巻く毛皮質、外側にキューティクル(毛小皮)の3層からなる.
①毛髄質(hair medulla):毛髪の中心(毛軸)に位置する細胞層であり、毛包の最内側に存在する大型の立方型の細胞群で、1〜2列に縦に配列している.硬毛には存在するが、産毛(毳毛)、軟毛にはかならずしも規則的に存在するとはかぎらない.
②毛皮質(hair cortex):毛幹を形成する主要な構造体で、毛の大部分を占め、毛包では楕円形の細胞層からなり、メラニン色素を含む.
③キューティクル(毛小皮)(hair cuticle):毛の最外側にある鱗(うろこ)状、屋根がわら状の薄い角化した細胞で、上向きに鋸歯(きょし)状で部分的に重なり合っている.キューティクルは外側から順にエピキューティクル、エキソキューティクル(外小皮)、エンドキューティクル(内小皮)の3層から構成される.キューティクルや毛皮質の間にあるセルメンブランコンプレックス(CMC)とよばれる細胞膜複合体構造は、キューティクルと毛皮質内細胞間を接着させる働きをもち、さらに外部から水分ならびにパーマ液などの薬液が毛皮質に浸透し、逆に毛皮質内からの水分やタンパク質の通り道が溶出したりするための役割を果たしているといわれている.
毛根の構造
(1)毛包(hair follicle)
毛包は毛乳頭、毛母、毛根鞘(もうこんしょう)を含めた総称でもある.また、毛包は、中心から内毛根鞘と外毛根鞘に大きく分けられ、結合織性毛根鞘がそれらを取り囲んでいるので、毛を包むものという意味でこの3種の毛根鞘のみをさす場合もある.なお、毛包の基底部には毛乳頭とそれを取り囲むように毛母があり、これらは毛の発育に重要な役割を担っている.
(2)毛球(hair bulb)
毛根のなかで、下の膨れた部分を毛球とよぶ.毛球は毛乳頭、毛母、毛根鞘からなる.
①毛乳頭(hair dermal papilla):毛包の基底部に存在する組織のこと.洋ナシの形をした真皮由来の細胞からなる組織で、毛の成長や分化、毛周期(ヘアサイクル)、さらに毛の性質を決定する役割を担い、毛をつくる実質の組織である毛母と相互に作用を及ぼし合うとされている.毛乳頭の大きさは毛の大きさにほぼ比例する.また、毛の成長を制御するさまざまな因子を放出する働きもある.とくに、男性ホルモンが作用するさい、重要な5α-レダクターゼや男性ホルモン受容体が局在する器官である.
②毛母(hair matrix):毛乳頭を取り囲むように存在する上皮由来の細胞群を毛母とよぶ.幹細胞から外毛根鞘細胞を経て、分化した毛母細胞によって形成され、細胞分裂の非常に活発な組織で、実質に毛をつくる組織である.毛周期は毛母と毛乳頭との相互作用によって制御されている.
③毛根鞘(細胞)(hair root sheath):毛を鞘(さや)状に取り囲んでいる組織のこと.毛根鞘はさらに内毛根鞘、外毛根鞘および結合織性外毛根鞘に区別される.内毛根鞘はさらに内毛根鞘小皮、ハックスレー層、ヘンレー層とよばれる3層からなる.外毛根鞘はほぼ単一の細胞群であり、メラニン色素を合成しない色メラノサイトを含む.最近、外毛根鞘の最内層は1層の独立した細胞層を形成することが明らかになった.結合織性外毛根鞘は毛包を一番外側から支えている組織で真皮性細胞からなり、成長期に毛乳頭になるとの報告もある.性質健康な日本人の頭髪(頭の毛髪)の数は約10万本で、太さは0.05〜0.15 mm、寿命は2〜6年、成長速度は1日あたり0.3〜0.4 mm、シスチン含量は約16%、含水量は11〜13%といわれる.ちなみに、われわれ人間の全身を覆う毛の総数は200万本とされている.毛髪は、皮膚のソフトケラチン(→ケラチン)とは異なり毛ケラチンからなる.皮膚の表皮を形成するソフトケラチンは脂質の含量が多く、シスチン含量が3%以下で熱に対して不安定であるのに対し、毛髪の毛ケラチンは爪と同じく脂質含量が少なく、シスチン含量が豊富で、熱に対して安定している.化学的および物理的特性を以下に示す.化学的特性は、組成や形状・形態を保持するための結合状態であり、物理的特性は、引っ張り特性や吸湿性についての性質である.
化学的特性
(1)組成毛髪は、大部分がタンパク質で、ほかにメラニン色素、脂質、水分、微量元素などからなりたっている.主成分であるタンパク質は、シスチンを多く含んだケラチンである.ケラチンは約18種類のアミノ酸からできているが、その組成について、羊毛ケラチンならびに人の表皮と比較して表に記載した.人毛ケラチンの特徴はシスチンの含有量が多いことで、人の表皮とはもちろんのこと、羊毛ケラチンと比べても約40〜50%多くなっている(表).また脂質は、個人差があるが、おおよそ1〜9%といわれている.毛髪より得られる脂質は皮膚と同様、皮脂腺由来の毛髪表面(外部)の脂質と毛髪内部に存在する脂質に区別される.表面の脂質組成は遊離脂肪酸が主成分で、トリグリセリド、ワックスエステル、スクワレン、コレステロールなどがある.一方、内部脂質は硫酸コレステロール、セラミドなどの極性脂質が主成分で、遊離脂肪酸やコレステロールなども含まれる.水分量については、毛髪には水を吸収する性質があり、含有量は周囲の環境湿度に応じて変化する.一般に25℃、65%程度の相対湿度においては、通常12〜13%の水分を含む.微量元素は、銅、亜鉛、鉄、マンガン、カルシウム、マグネシウム、リン、ケイ素など約30種ほどあり、量としては0.55〜0.94%含まれているといわれる.
(2)毛髪内に存在する結合毛髪は化学的にはケラチンで構成されており、おのおののタンパク質分子の間には分子間力ないしは化学結合が存在し、毛髪はこれらの結合によってその性状・形態を保持していると考えられている.毛髪内に存在する活性基と化学結合については次のものがある(図).
①塩結合(-NH3+…-OOC-):リジンやアルギニン残基のプラス(+)に荷電したアンモニウムイオンとアスパラギン酸残基のマイナス(−)に荷電したカルボキシレートイオン相互の静電的結合.pH 4.5〜5.5の範囲(等電点とよばれる)のとき、結合力は最大となる.
②ペプチド結合(-CO-NH-):グルタミン酸残基の-COOHとリジン残基の-NH2からH2Oがとれて-CO-NHが連結されたもので結合力がもっとも強い.
③ジスルフィド結合(-CH2S-SCH2-):タンパク質に特有な硫黄(S)を含んだ結合で、ほかの線維には見られない側鎖結合によってケラチンを特徴づけている.パーマ剤によるウェーブ形成は、パーマ剤1液に配合されている還元剤によって本結合を切断し、毛髪を好みのウェーブに型づくりさせた後、その型を保持するために2液の酸化剤にて再結合させるものである.
④水素結合(-C=O…HN-):アミド基の酸素原子とそれに隣接する別のアミド基の水素原子との間の結合である.毛髪を水にぬらしてからカールし、そのままの状態で乾燥させれば、丸まったままもとに戻らない状態がつづくことはよく知られた現象である.この現象をウォーターウェーブとよんでいるが、本結合が関与している.
物理的特性
(1)引っ張り特性毛髪を徐々に大きな力をかけて引っ張っていくと、伸びるとともに太さも細くなっていき、ついには伸びきれなくなって切れてしまう.毛髪の伸びた割合を伸び率(%)、切断時の力を引っ張り強さ(g)で表す.毛髪の平均的な数値は、乾燥時で伸び率40〜50%、引っ張り強さは140〜150 g、水でぬらした状態では伸び率60〜70%、引っ張り強さは90〜100 gといわれる.
(2)吸湿性毛髪を空気中に放置すると水分を吸収もしくは放出して、その環境の水蒸気と平衡を保つ状態に達する.この平衡は湿度に影響され、相対湿度が高くなるにつれ水分含量は増加する.雨の日にヘアスタイルが崩れがちになるのは、毛髪は一定以上の水分を吸収すると、毛髪中の水素結合が切断され、もとのヘアスタイルに戻るためである.また、冬季にブラッシングのさい、静電気が発生しブラシに髪がくっついたりするのは、乾燥により毛髪中の水分が失われがちになっているためである.このように毛髪は、湿度の変化に敏感で、水分量が多すぎると髪のこしが失われ、少なすぎるとパサつきが目立つようになるという性質がある.(植村雅明、濵田和人)