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脂質 [lipid]

水に不溶で、エーテル、クロロホルム、ベンゼン、エタノールなどの有機溶媒に溶ける極性の低い一群の化合物の総称.脂質は、タンパク質、糖質、核酸とともに重要な生体構成成分である.また、脂質、タンパク質、糖質は、三大栄養素とよばれる.脂質は、エネルギー源として利用され、ほかの栄養素に比べ多くのエネルギーが放出される.脂質は、脂肪組織に大量にエネルギーを貯蔵することができるので、エネルギーの貯蔵からも重要である.細胞膜の構成、ステロイドホルモンの原料として、また物質の運搬にも重要である.化学構造上の絶対的な定義はなく、物質代謝的にも異なる機能をもつ多くの有機化合物が属する.この点が、特定の化学構造に基づいて定義されるタンパク質や糖質との大きな違いである.Bloorが1925年に提案した、①水に難溶で有機溶媒に可溶な有機物質、②脂肪酸とエステルをつくっているかつくりうるもの、③生物体に利用されるもの、という脂質の定義がいまなおもっとも広く採用されている.どの脂質も分子量は3,000以下で、タンパク質や核酸のような高分子量化合物ではない.生体内では、生体高分子と弱い相互作用をしながら、集合したり、共存したりしていることが多く、遊離した分子として存在することは少ない.血液中の脂質はタンパク質と結合して水溶性のリポタンパク質を形成する.リポタンパク質は、比重の小さいものからキロミクロン、超低密度リポタンパク質、低密度リポタンパク質(LDL)、高密度リポタンパク質(HDL)、超高密度リポタンパク質に分けられる.キロミクロンは脂質の肝臓への運搬、その他のリポタンパク質は、肝臓とその他の臓器との間の脂質の運搬を行う.LDLはコレステロールを運搬するが、血管壁に蓄積して動脈硬化の原因となるコレステロールの大部分は、LDLに由来する.またHDLには、LDLとは逆に、血管壁に蓄積したコレステロールを除去する働きがある.脂質は一般に以下のように分類されるが、このうち一部は皮膚表面に存在する.それらは皮脂もしくは皮表脂質とよばれ、グリセリド、遊離脂肪酸、スクワレン、ろう(ワックス)、コレステロールおよびそのエステルがその主成分である.
単純脂質
脂肪酸と各種アルコールのエステルで、中性脂質ともいう.
(1)中性脂肪(油脂)
1分子のグリセリン(グリセロール)と3分子の脂肪酸のエステルで、トリグリセリドとよぶ.脂肪酸の数によって、モノグリセリド、ジグリセリドがある.中性脂肪は、その脂肪酸組成によって融点が異なり、常温で液状のものを油、固体のものを脂肪という.トリグリセリドはエネルギー源として重要であり、とくに貯蔵エネルギーとして重要な役割をもつ.事実、食品に含まれる脂質の大部分はトリグリセリドである.摂取した脂肪のうち、余分なものは皮下や内臓の脂肪組織に蓄えられ必要に応じて分解されて血中に放出され、利用される.また、脂肪組織には体熱放散を防いだり、内臓を保護するなどの作用もある.
(2)ろう(ワックス)
高級アルコール高級脂肪酸のエステル.皮脂の成分として、外皮の保護物質としての作用をもつ.
(3)ステロールエステル、ビタミンA、Dなどの脂肪酸エステル
複合脂質
脂肪酸、アルコールのほかにリン酸、糖、硫酸、アミンなどの極性基をもつ化合物.極性基の種類によってリン脂質、糖脂質あるいはスフィンゴ脂質などに分類される.
(1)リン脂質
糖脂質やコレステロールとともに生体膜の構成成分であり、また脳神経系にも多く存在している.リン脂質の分子は2層に並んで脂質二重層を形成し、細胞膜の主成分となる.コレステロールや糖脂質もまた細胞膜中に含まれ、前者は細胞膜に強度を与え、後者は細胞表面で膜の認識機構などに関与する.リン脂質は、グリセロリン脂質とスフィンゴリン脂質に大別され、前者の中では、レシチンがもっとも多く見出されている.レシチンは分子内に疎水性部分と親水性の部分をもつので、強い界面活性を有し、その乳化作用によって脂肪の消化吸収に役立っている.また、アミノアルコールであるスフィンゴシンのアミノ基に、脂肪酸がアミド結合しているセラミドの末端水酸基に種々の物質が結合したものが、スフィンゴ脂質である.スフィンゴ脂質の末端水酸基にコリンリン酸が結合したものがスフィンゴミエリンで、スフィンゴリン脂質の代表的なものである.神経髄鞘に多量に存在している.
(2)糖脂質
糖を構成成分として含む脂質.血液型や菌種の決定因子などの抗原性物質として重要であり、スフィンゴ糖脂質とグリセロ糖脂質に分けられる.高等動物の糖脂質はほとんどすべてスフィンゴシンを含むのに対し、植物体や微生物界にはジグリセリドに糖のついたグリセロ糖脂質が存在する.
(3)硫脂質
分子内に硫黄を含む脂質.脳やその他の動物組織の硫脂質は、多くの場合、スフィンゴ硫脂質であり、糖の硫酸エステルの形をとる.グリセロ硫脂質は主として植物に見出され、動物では精子に存在する.
誘導脂質
単純および複合脂質の加水分解によって生成する化合物のうち脂溶性のもの.脂肪酸、高級アルコール、脂溶性ビタミン(ビタミンA、D、E、K)、ステロイドなどがある.脂肪酸は長い炭化水素鎖をもつカルボン酸である.脂肪酸のうち、リノレン酸、リノール酸、アラキドン酸は、体内で合成できず、欠乏すると皮膚炎や成長障害を起こすことから必須脂肪酸とよばれる.この必須脂肪酸は二重結合を複数もつ不飽和脂肪酸で、植物性油に多く含まれる.また、ステロイドはステロイド骨格をもつ物質の総称で、コレステロールなどのステロール類、胆汁酸、プロビタミンD、ステロイドホルモンなどがある.コレステロールは細胞膜の成分として重要であるほか、胆汁酸やステロイドホルモンの前駆体となる.(土屋徹)

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