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基底膜 [basement membrane]
非常に薄い膜状の構造体ですべての組織に存在し、発生学的に異なる上皮組織と間葉系組織の間に存在し両者を結合させ、さらに独自性を維持する働きをもつ.その中で、皮膚の表皮と真皮の間に存在し、両者の機能を分離しつつもしっかりと結合させてコミュニケーションを制御しているのが、表皮基底膜である.この基底膜は、どの組織にもある基底膜と成分や構造が異なる部分があり、皮膚の機能を維持する上で大事な役割を果たしている.
構造
表皮基底膜は約0.1 mm程度の非常に薄い構造体で、表皮と真皮の接合部にシート状に存在する.基本構造であるlamina densaとlamina lucidaとに加えて、ケラチノサイト(表皮角化細胞)のヘミデスモソーム、アンカリングフィラメント、アンカリング線維からできており、基本構造は、IV型コラーゲンと各種ラミニン、プロテオグリカンなどで形成されている(図).表皮基底細胞と基本構造(とくにlamina densa)を結合させているアンカリングフィラメントの主要な成分はラミニン5であり、基本構造(とくにlamina densa)と真皮のコラーゲン線維をつないでいるのがVII型コラーゲンを主要成分とするアンカリング線維である.アンカリングフィラメントとアンカリング線維は互いに結合でき、これらをアンカリング複合体とよぶ.この構造が、最外層の皮膚が外界からの力学的なストレスに負けない強度を保っている.
機能
基底膜の機能は表皮と真皮を強く結合させるだけでなく、細胞の機能の維持や真皮の構造の維持にも働いている.皮膚では、基底膜に結合している表皮基底細胞のみが増殖能を獲得し、基底膜から離れると分化過程に入るという動きを見せる.さらに基底膜はケラチノサイトの酵素産生も制御し、また基底膜成分は細胞増殖因子なども結合して因子の機能を調節している.このように、基底膜は皮膚を正常な状態に維持する上で欠かせない役割を果たしている.
基底膜修復因子
皮膚の基底膜は、紫外線などによりダメージを受けやすい.生体にとって重要な働きを担っているので、ダメージを受けてもつねに修復されている.しかし、皮膚の老化とともに修復能力が低下してくるため、そのダメージが蓄積され皮膚に悪影響を及ぼすと考えられている.基底膜を修復する因子として、ラミニン5そのもの、あるいはその産生を促進する細胞増殖因子が知られている.一方、基底膜に分解などのダメージを与えるのが、MMP-9(マトリックスメタロプロテアーゼ-9、別名ゼラチナーゼB)やプラスミンなどの酵素である.そのため、これらの酵素阻害剤も基底膜の分解をおさえ、皮膚への悪影響を抑制していることが知られている.(西山敏夫)