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表皮 [epidermis]
生体を外界から守るバリアで、真皮に接し下層から順に、基底層、有棘(ゆうきょく)層*、顆粒層、そして角層という四つの層からなっている.その主要な構成細胞であるケラチノサイト(表皮角化細胞)は独特に分化し、物理化学的刺激に対して高い抵抗性をもつバリア機構を完成させる.また、数は少ないものの、メラニン色素を産生するメラノサイト(色素細胞)、免疫系のランゲルハンス細胞、神経細胞であるメルケル細胞があり、ケラチノサイトでは対応できないその他の生理的防御機能を担当している.その他の生理的防御機能のうち、ランゲルハンス細胞は抗原提示能をもち、表皮を媒介とする免疫反応を通して生体を守っている.また、生体にとっての大きな脅威に紫外線があるが、紫外線は角層で一部は散乱されるものの、皮膚内にも浸透する.これに対しては、メラノサイトがつくるメラニンがもっとも効果的な防御機構として働いている.メルケル細胞には神経終末が基底膜をつらぬいて接触しており、直接的な皮膚感覚器官として働いている.このように、表皮に存在するいくつかの細胞はケラチノサイトの防御機構を補うことにより、表皮の機能をより完全なものにしていると考えられる.(→総論6章)
表皮真皮接合部(dermal epidermal junction)
表皮と真皮の境界部のことで、ここには、表皮が真皮結合織に結合するために重要な構造体が存在している.表皮基底層に存在するケラチノサイトは、ケラチン14と5からなるトノフィラメントをBP230、XVII型コラーゲン(BP180)、インテグリンα6β4からなるヘミデスモソームに収れんさせる.そのヘミデスモソームは電子顕微鏡で観察したときに電位密度の低い透明層(lamina lucida)に到達し、ラミニン5を主成分とするアンカリングフィラメントに結合している.さらには、IV型コラーゲンなどより形づくられる電子密度の高いち密層(lamina densa)に結合している.ち密層からは、主としてVII型コラーゲンからなるアンカリング線維が真皮結合織に垂れ下がり、真皮内に存在するコラーゲン線維に結合している.このち密なアンカリング複合体を境界部に形成することによって、表皮の真皮結合織への結合が強固なものとなっている(図).(→基底膜)
表皮突起(epidermal rete ridge)
表皮が真皮側に突出した部分.垂直断面では表皮真皮接合部は波型を呈し、立体的には表皮突起が真皮側に指を多数突き出したような形態となる.一般に足の裏のような力のかかる部位や、ケラチノサイトの増殖が盛んな部位では表皮突起が真皮側に深く入り込み、その間隔も狭い.また、紫外線による刺激や乾癬などケラチノサイトが増殖した状態では、表皮突起は真皮側に深く延長する.逆に、老化などで表皮が萎縮すれば表皮突起は消失し、表皮真皮接合部は平坦化する.この現象はケラチノサイトの増殖が加齢とともに低下していくことと関係があると考えられている.
表皮脂質(epidermal lipid)
ケラチノサイト由来の脂質のこと.表皮脂質は、表皮乾燥重量の10〜15%であり、成分は中性脂肪(トリグリセリド)、遊離脂肪酸、コレステロール、セラミド、リン脂質、その他の複合脂質よりなる.遊離脂肪酸としては炭素数16ならびに18が多い.表皮脂質のうち角層細胞間脂質の主成分である遊離脂肪酸、コレステロール(エステル)、セラミドは、ケラチノサイトの分化の過程で生成され、細胞が角層に至るときに細胞内の層板顆粒から細胞間に排出される.角層細胞間脂質は角層のバリア機能に重要な役割を果たしている.(→皮脂)
表皮萎縮(epidermal atrophy)
栄養不良や自然老化などが原因で起こる表皮層が薄くなる現象.表皮は基底細胞層のケラチノサイトが基底膜に結合して分裂・増殖を繰り返し、一部の細胞が分化シグナルを受け取って基底膜から離れると有棘層、顆粒層、角層へと順次分化が進行する.したがって、表皮の萎縮は、基底層でのケラチノサイトの分裂・増殖の低下が主たる原因であるといえる.
表皮増殖(epidermal proliferation)
表皮で細胞が増殖すること.正常表皮では基底細胞の一部のみに起こる.分裂により生まれた娘細胞は、一方は上方の有棘層へ移動し分化を開始し、もう一方は基底層にとどまる.基底層には、一部に幹細胞といわれる非常にゆっくりとした細胞周期をもつものが存在し、増殖のさいにはこの幹細胞が周囲に高い分裂能力をもつTA細胞(transit-amplifying cell)をつくり出す.これが分裂することにより、新しい基底細胞が供給される.幹細胞は、手掌や足底の表皮では表皮突起の先端に、そのほかでは真皮乳頭直上の基底層にあるといわれており、毛包では脂腺開口部のやや下方の一部隆起した部位(バルジ)に存在する.また、肌荒れや、皮膚に炎症が起きたときには表皮増殖が活発になり、その結果表皮は厚くなる.
表皮肥厚(epidermal hyperplasia、 epidermal hypertrophy)
ケラチノサイトの増殖亢進、あるいは個々の細胞の肥大化により、表皮全体の厚みが増した状態.長期にわたって露光した光加齢皮膚や、レチノイン酸を長期に塗布した皮膚で観察されることがよく知られているが、そのほかの薬剤や刺激によっても誘導される.レチノイン酸塗布による表皮肥厚では細胞増殖の亢進と肥大化の両方が観察され、とくに顆粒層の増化の寄与が大きい.(天野聡、江浜律子、北村謙始、日比野利彦、松永由紀子)