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液晶乳化 [liquid crystal emulsification]
界面活性剤の液晶中に分散相を分散・保持させて微細な乳化粒子を生成させること.乳化に液晶相を利用することにより、界面活性剤分子が効率よく油/水界面へ配向して界面張力を低下させるとともに、界面膜強度が高まるという利点がある.応用される液晶としては、ラメラ液晶、逆ヘキサゴナル*液晶、キュービック液晶があり、いずれも特徴ある乳化系を生成する.
ラメラ液晶を用いた水中油(o/w)型液晶乳化
液晶乳化のプロセスは図1の流れ図および相図中の矢印で示すように、2段階のスッテップで行われる.第1ステップでは液晶にかくはん下で油相を添加していき、液晶中に油が保持されたゲル状の液晶中油(o/lc)型エマルションを生成させる.第2ステップでは、ゲルに水相を加えてo/w型エマルションとする.液晶乳化に適した界面活性剤としては、広い温度・濃度領域においてラメラ液晶を形成する二鎖型の界面活性剤があげられる.液晶中にグリセリンのような多価アルコールを共存させると液晶の油保持能が高まる.また、低濃度でもミセル溶液とならずにラメラ液晶の分散系となるような界面活性剤を用いると、液晶が油滴のまわりを取り囲んだ3相エマルションが生成し、合一に対してきわめて安定な系が得られる.液晶乳化は、油成分の種類(所要HLB)にあまり影響されることなく、微細なエマルションを生成させることができる.
逆ヘキサゴナル液晶を用いた油中水(w/o)型液晶乳化
疎水性が強い界面活性剤は、逆ヘキサゴナル型液晶を形成し、多量の水が存在しても液晶相は水と分離した状態で共存する.多少の油が存在しても液晶が消失しない条件下で、油を含む液晶に水相を添加すると、w/o型エマルション(厳密にはw/lc型エマルション)が生成する.このエマルションは水相が強固な液晶膜により隔てられているため、内相の容積が大きな高含水系でも安定に存在できる(図2).液晶乳化を用いたw/o型エマルションは通常のw/o型エマルションに比べてさっぱりとした使用感のエマルションとなるほか、はっ水性を有するため、UVケア化粧品や、クリーム状ファンデーションのベースとして応用されることもある.
キュービック液晶を用いたo/w型およびw/o型液晶乳化
キュービック液晶を用いた高内相比ゲルエマルションの生成も報告されている.4種のキュービック液晶が知られているが、乳化に用いられるのはこのうち、球状ミセルが立方晶を形成している液晶相のL1相あるいはL2相である.L1相は親水性の強い界面活性剤系で形成される.非イオン性のポリオキシエチレンアルキルエーテル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルのほか、イオン性のドデシルトリメチルアンモニウムクロリドなどで形成することが認められている.キュービック相に油を添加すると、キュービック相と油相が分離共存する.この系をL1相の融解温度以上の条件、すなわちミセル水溶液と油相の2相系でかくはんするとo/w型エマルションが生成するが、それを常温へ急冷すると、L1相中に油滴が分散したo/L1型エマルションとなる.L1相は非常に高粘度であり、さらに屈折率が油相の屈折率と近いため、透明もしくは半透明のゲル状エマルションとなる.オクタメチルシクロテトラシロキサンなどの疎水鎖が十分長くても液体状態を保てるシリコーン系の界面活性剤/水/シリコーン油系では、逆キュービック相(L2)が形成される.L2相に水を添加していくと、可溶化限界を超えた領域でw/L2型のエマルションとなる.連続相は強固なL2相であるため、球の細密充填である臨界容積分率0.74を超えた分散相容積の高内相比ゲルエマルションも安定維持される.(鈴木敏幸)