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UVケア [UV care]
太陽光中に含まれる紫外線によって引き起こされる生体の急性、慢性のさまざまな傷害を防止すること.紫外線ケア、サンケア®ともいう.以前は日焼けを防止するという意味で、一般名称であるサンケア®という表現を用いられることが多かったが、いわゆる日焼け以外にもさまざまな紫外線の傷害があり、太陽光線による傷害に紫外線が主たる原因として関与していることが明らかになるにつれ、UVケアという表現が汎用されるようになってきた.近年は紫外線によるさまざまな傷害がたんに皮膚だけの問題ではなく、全身の健康にまで影響することがわかってきており、たとえば紫外線による免疫抑制はさまざまな感染症に対するからだの抵抗力を低下させ、また皮膚がんの発症にも影響を与えていると考えられている.こうしたことからUVケアの概念は、従来の化粧品の枠に収まらない健康維持といった新たな効能にまでつながっていくということができる.
紫外線傷害のメカニズム
紫外線は物理的な電磁波の一種であるが、これが生物学的な影響を及ぼすためには電磁波のエネルギーが形を変える必要がある.紫外線は皮膚に侵入すると、紫外線を吸収して紫外線の物理的エネルギーを化学的な活性種に変換する光増感物質という生体内物質に吸収される.紫外線を吸収した光増感物質は活性酸素やフリーラジカルなどの化学的に不安定な状態をつくり出し、光増感物質そのものの化学反応に加えて、直接的に紫外線を吸収しない生体内物質に対しても化学反応が誘発され、その化学反応の蓄積が生物学的な傷害にまで至ると考えられる.
紫外線による皮膚の傷害
紫外線による皮膚の急性傷害はサンバーンとよばれる紫外線紅斑をはじめとして、日焼け(サンタン)、肌荒れ、サンバーンセルの形成、免疫抑制などがあげられるが、通常は可逆的な変化であり、回復によって定常状態の皮膚へ戻るものである.しかし、免疫抑制現象そのものは急性傷害であるものの、それが慢性傷害につながっていく可能性も指摘されている.皮膚にあるランゲルハンス細胞は骨髄由来の樹状細胞であり、表皮内で免疫担当細胞として働いているが、このランゲルハンス細胞に紫外線が当たると、皮膚の免疫機能が低下する.また、ケラチノサイト(表皮角化細胞)からもサイトカインなどさまざまな可溶性因子が放出されて生体の免疫機能を制御しているが、紫外線が当たるとケラチノサイトに損傷を生じ、生体の免疫機能が低下し、感染症の罹患(りかん)や長期的には皮膚がんなどにつながると考えられている.さらに紫外線による傷害としては、急性傷害とは異なり、長い期間をかけて皮膚に起きる非可逆的な変化である慢性傷害も知られている.たとえば光老化は紫外線による慢性傷害の一つで通常の老化と異なり、日光暴露部位に多く見られる加齢性の皮膚変化をさし、顔面に散在する不定形な色素沈着、戸外労働者の頸部によく見られるひし形状の深いしわや老人性疣贅(ゆうぜい)などに代表される.老人性色素斑は紫外線を繰り返し浴びることにより生じた不定形の色素沈着で、紫外線をよく浴びた30歳以降の人の顔面や肩などにしばしば観察される.日光弾性線維症は真皮のエラスチン線維(弾性線維)が長年の紫外線の蓄積効果により塊状になる変性を受け、皮膚表面の深いしわとなって現れるものである.また日光角化症は表皮肥厚あるいは萎縮とともにケラチノサイトの異型性が観察される一種の前がん状態と考えられているが、基底膜を破壊して症状が進行していった場合には皮膚がんとなる.皮膚がんは典型的な長期紫外線暴露による慢性傷害であるが、1970年代の米国での疫学調査で、身体の太陽光暴露部位が患部である場合が多いこと、戸外労働者に多く見られ、また紫外線照射量の多い地域での発生率が高いことなどが判明し、太陽光中の紫外線が皮膚がんの大きな原因の一つであることは明らかとなってきた.とくに有棘(ゆうきょく)細胞がん、基底細胞がんの2種は典型的な紫外線皮膚がんと考えられている.さらに近年では、メラノサイトのがんであるメラノーマも紫外線の影響が無視できないと考えられるようになってきた(→皮膚がん).
日焼け止め化粧品
太陽光中の紫外線が生体にもたらすさまざまな傷害を防御することにおいて、物理的に紫外線を遮へいする日焼け止め化粧品の使用効果は大きい.これらには、通常は紫外線防御剤として紫外線吸収剤または紫外線散乱剤が配合されている.紫外線吸収剤は一般に有機化合物であり、特異的な波長域の紫外線を吸収して励起状態になり、それを熱などのエネルギーとして放出して基底状態に戻る.そのため可視部領域での吸収が低いものが多く、透明な日焼け止め製剤を構成するには都合がいい.しかしながら、一部の人にはまれにアレルギーを起こす場合があることや、使用性が好まれないなどの欠点もある.なお、紫外線吸収剤を化粧品に配合するにはポジティブリストに収載されている薬事法上許可されている化合物を使用する必要がある.つまり新たな紫外線吸収剤の開発にあたっては厚生労働省の許可を個別に取得し、ポジティブリストに収載されてからでなければ使用できない.これに対して紫外線散乱剤は一般に無機化合物の超微粒子の粉末で、代表的なものに酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化セリウム、酸化ジルコニウムなどがある.これらは遮へい波長域が広域にわたりUVBだけでなくUVAに対しても防御効果を示すものがあるが、一方では化合物の種類・性状によっては可視光領域の光に対しても散乱効果がある.これらの無機粉末は基本的に経皮吸収されないために比較的安全性が高く、紫外線吸収剤に対して弱い肌にも使える製品として応用されている.以前はこれらの紫外線散乱剤は紫外線の散乱効果のみによって紫外線防御効果を発現していると考えられていたが、最近は紫外線吸収により電子的な変化が起きていることも知られるようになり、かならずしも散乱剤という表現が適切ではなくなってきている.日焼け止め化粧品には、その効果を表すものとしてはSPF(サンケア指数)とPAが表示されている(→紫外線防御).(畑尾正人)