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皮膚の乾燥 [skin dryness]

皮膚の水分が失われて乾燥肌になることをさす.皮膚の乾燥は、それに引きつづく肌のトラブルの原因であると同時に、乾燥肌として認識される肌の症状でもある.つまり、かさかさしたり、ざらついたりという感触の悪さや、スケーリングの発生のような表面形態の悪さ、見た目の悪さ、さらには、化粧のりがよくない、小じわが発生するなど、皮膚の乾燥に伴って多くの肌トラブルが発生する.皮膚の乾燥は、多くの場合、角層水分量の低下について論じる場合が多い.ヒトを含む陸棲生物は大気に囲まれて生活しているが、その界面である皮膚、なかでも角層は生体の最外層に位置しており、体内の水分量に比べて乾燥した環境にさらされつづけている.そして、角層の水分含有量は体内より低く、また角層水分量の低下そのものが乾燥肌の原因となっているからである.皮膚の乾燥は、生体を取り巻く外的な環境要因や生体側の内的な要因によって引き起こされる.それらの要因がさまざまに重なりあって皮膚の乾燥を起こし、助長している場合が多い.
(1)環境湿度
日本列島は南北に長く、その気候は季節によって地域によって異なる.一般に、冬季においては太平洋側では少雨で乾燥した気候になる.また、日本海側では雪が降って冷たい気候になり相対湿度は高いものの、暖房の効いた室内では気温が上がることで相対湿度が低下した乾燥した環境になる.さらに風の強い天候では皮膚からの水分喪失が助長されるなど、いずれの状況においても冬季には皮膚が乾燥しやすい.夏季においても、湿度の高い環境は嫌われさわやかな環境が好まれて、オフィスでの空調施設の充実、家庭へのエアコンの普及、マンションなど断熱性、密閉性の高い居住空間といったことがあいまって、湿度の低い環境で生活する時間は長い.また、道路の舗装、小川の暗渠など、都市空間自体が相対湿度の長期的な低下傾向に拍車をかけている.こうした近年の都市型のライフスタイルにおいては、皮膚の乾燥を訴えるケースが少なくない.
(2)日焼け
日焼けも間接的に皮膚に乾燥をもたらす要因の一つである.太陽光線に含まれる紫外線はいわゆる日焼けを起こす.日焼けによって皮膚のターンオーバーは亢進し、分化のリズムが変調をきたし、肌荒れ状態になる.紫外線の強い夏季には、わずかな時間を戸外で過ごしただけでも日焼けをしやすくなる.アウトドアでの活動のさいには汗をかくことで皮膚の乾燥は起こりにくいが、日焼けによって荒れた肌では角層の水分保持力はかならずしも十分ではなく、ひとたび空調の効いた環境に入ると乾燥を引き起こす.したがって、保湿によって角層の水分保持力を高めるだけでなく、日焼けの原因である紫外線に照射される機会を減らす、適切な日焼け止め化粧品の塗布などによって紫外線を遮断する、などの対策をとることが重要となってくる.
(3)過度な洗浄行為
皮膚の乾燥を防ぐためには、角層がいかに優れた水分保持力をもっているかが重要である(→角層保湿機能、水分保持力).角層水分量の維持には天然保湿因子(NMF)、角層細胞間脂質皮脂が大きな役割を演じているが、なかでもアミノ酸を主要成分とするNMFの果たす役割は大きく、加えて角層の規則的な構築状態も重要であると考えられている.皮膚の新陳代謝による汚れや付着した異物などを、適切な洗浄によって除去することは、皮膚を健やかに保つために必要不可欠である.しかし、洗浄成分によっては皮膚から皮脂を除去し、NMFを流出させ、角層細胞間脂質の構築に影響を与えてしまい、その結果、角層の水分保持力を低下させ、皮膚の乾燥を招くことがある.洗浄直後は皮膚に水分が残るために角層の水分保持力の低下に気がつかないことが多いが、時間の経過とともに水分の喪失に気づく.したがって、過度な洗浄行為は避けるべきである.
(4)内的要因
角層中のアミノ酸は、顆粒細胞中のケラトヒアリン顆粒に由来するフィラグリンの分解によって角層に供給される.このフィラグリンの産生は、ケラチノサイト(表皮角化細胞)の角化の過程に密接にリンクしており、角化のリズムの変調によって低下し、結果として角層中アミノ酸の減少、それに引きつづく角層水分量の低下、すなわち皮膚の乾燥が生じる場合がある.その例として、アトピー性皮膚炎老人性乾皮症が報告されている.前者はアトピー素因という遺伝的要因に加えて、外来のアレルゲンの侵入という環境要因などによって引き起こされる皮膚炎と理解されるが、炎症に伴ってケラチノサイトの増殖が盛んになって角化の過程が変調し、フィラグリン産生が低下すると考えられる.また、老人性乾皮症では、ケラチノサイトの増殖は反対に低下するが、フィラグリン産生が低下して角層中アミノ酸が低下するために皮膚が乾燥すると考えられている.これらのように遺伝的な背景や加齢などの内的な要因も、皮膚の乾燥を助長する要因の一部となっている.(平尾哲二)

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