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しわ [wrinkle]
加齢とともに皮膚表面に生じる溝状の筋目.Kligmanらの形態学的分類によれば、目尻や眉間などに生じる線状じわ、頬や首などで比較的深い溝が互いに交差してひし形や三角形に見える図形じわ、大腿、腹部などの弛緩した皮膚にできる細かなひだ状の縮緬(ちりめん)じわの三つに大別される.小じわの明確な定義はないが、線状じわの中でも目の周囲に現れる比較的溝が浅くて目立ちにくいしわや縮緬じわは、一般に小じわと考えられている.表情の変化に伴って皮膚が折り畳まれる部位(目尻など)で一時的に生じるしわは表情じわ*とよばれることもある.また、日光暴露の有無により光老化または自然老化によるしわ(腹部、臀部など)に分類することもある.一般に光老化はおもに顔面や首など日常的に外的な影響を受けやすい部分で生じ、前述の線状じわや図形じわのような比較的深いしわの形成に寄与すると考えられている.
形成要因
しわの形成には、遺伝や加齢による皮膚を構成する個々の細胞の機能低下や全身的なホルモンレベルの変化といった内的な要因と、日光暴露、温度、湿度の影響などの外的要因が深く絡みあっている.
(1)ケラチノサイトの老化
一般に、細胞は加齢に伴ってDNA合成能や各種タンパク質などの合成能が低下して機能が低下するとともに、細胞分裂も起こりにくくなる.また、正常な細胞であれば細胞分裂の回数は有限であるため、加齢とともに細胞が死滅消失して全体の細胞数が減少していく.表皮の大部分を占めるケラチノサイト(表皮角化細胞)も例外ではなく、実際加齢とともに表皮は薄くなり、表皮-真皮界面の凹凸が扁平化し接着が脆弱化するので、皮膚表面の細かいしわができやすくなると考えられる.
(2)真皮構成
成分の加齢による変化
真皮は30歳代にもっとも厚く、その後加齢とともに減少する.一方で、機械的強度や酵素、化学薬品に対する抵抗性が増大し、柔軟性、弾力性、膨潤性は減少する.このように硬く、柔軟性を失うことにより表皮との接着が脆弱になって縮緬じわのようなしわの形成につながると考えられる.真皮の大部分は、真皮中の線維芽細胞から合成されるコラーゲン線維(膠原線維)、フィブロネクチン、エラスチン線維(弾性線維)、グリコサミノグリカン、プロテオグリカンといったタンパク質が線維状、網目状に構成された細胞外マトリックスからなる.線維芽細胞も加齢とともにその機能が低下して、たとえばコラーゲン線維の産生量が低下したり、結合能の欠如したフィブロネクチンを産生するようになる.このような変化は線維芽細胞自体の加齢に起因する代謝過程の変化によるものと考えられている.コラーゲン分子は線維芽細胞で合成され細胞外に分泌された後、規則的に架橋して結合組織の強度を維持している.ところが加齢に伴いある種の架橋が増加し、その結果コラーゲン線維の構造が変質していると考えられる.また、皮膚の弾性を維持しているエラスチン線維は加齢とともにより絡みあうようになって変性しており、その主成分であるエラスチンのアミノ酸組成が老化した組織で大きく異なることがわかっている.エラスチンは同一の遺伝子から生成するにもかかわらず転写位置の違いによってわずかに構造が異なる複数の異性体が存在することから、この転写様式が加齢とともに変化していくのか、または非エラスチンタンパク質が加齢とともに架橋などによって結合されていくのかはまだよくわかっていない.このようにコラーゲン線維、エラスチン線維は加齢とともに変質している.これらの細胞外マトリックス分子は代謝回転が遅く組織中に長期間存在するので、紫外線や活性酸素などによるダメージが蓄積しやすく、その結果線維芽細胞の足場としての性質が劣化して、細胞の老化を促進していくと考えられている.
(3)紫外線
日光に長期間暴露された皮膚では深くて明確なしわが観察されることはよく知られた事実であり、また実験的にも紫外線の照射により同様の光老化とよばれる皮膚変化が観察される.こうしたことから、紫外線がしわの大きな形成要因であることは疑念の余地がない.強度や線量にもよるが、紫外線は皮膚中に炎症細胞やマスト細胞を増加させ、活性酸素やゼラチナーゼなどの各種マトリックス分解酵素を誘導することにより、コラーゲン線維やエラスチン線維などに障害を起こす.これを修復しようと制御の利かない過剰な合成が繰り返し引き起こされた結果、組織変化が起こるものと考えられる.また紫外線は、分子レベルでは皮膚の細胞内のDNAを損傷する.細胞は自身でこれを修復する機能(DNA修復酵素など)を有するものの、一部修復が完全に行われない場合もあり、そうして残ったDNAの傷が長年の間に蓄積して細胞の機能に悪影響を及ぼす可能性も示唆されている.光老化した皮膚では表皮の肥厚、基底膜の重層化が観察され、真皮中にはエラスチン線維が集塊をつくって蓄積し、コラーゲン線維が変性・崩壊する.また、毛細血管の拡張・新生も認められる.こうして柔軟性を失った皮膚は表情の変化などによって繰り返し折り畳まれる部分がもとに戻りにくくなって、深いしわを形成していくものと考えられている.
(4)活性酸素・フリーラジカル
皮膚はつねに外界と生体内からの酸化障害にさらされている.前述の紫外線が直接、あるいはリボフラビンなどの光感作性物質を介して、表皮または真皮線維芽細胞中に各種フリーラジカルや活性酸素を産生させることが知られており、またある種の化学物質や生体内の細胞代謝によっても誘導される.これらのフリーラジカルや活性酸素は細胞膜などの脂質の過酸化や、コラーゲン線維やエラスチン線維の不要な架橋によるタンパク変性、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)などの抗酸化酵素の不活化などを引き起こし、真皮中のマトリックス構造および細胞機能を劣化させて、最終的にはしわという形態変化につながると考えられる.
(5)角層機能の低下
小じわを画像解析により定量化し角層水分量との関連を調べると、角層水分量が低いと小じわの程度が高いということがわかる.角層水分量が低い皮膚では角層の柔軟性が失われるためではないかと推察されている.しかしながら、加齢による角層水分量の低下は認められないという報告もあり、むしろ個人の特質や乾燥などの生活環境による影響が大きいと考えられる.
測定
こうして形成されるしわの改善を望む人々の数は多く、多様な研究が進められているが、研究を進める上では、しわの程度を再現性よく客観的に評価する方法論が必要不可欠である.もっとも基本的なものは視観判定法で、直接あるいは写真などでしわを観察し、スコア化する方法である.また、近年はシリコーンラバー系の印象剤を用いてしわの形状を写し取り、そのレプリカを画像解析により評価する方法が各種考案されている.以下におもなものをあげる.①トレース法:レプリカ表面の凹凸を針状プローブまたはレーザー光でくまなくなぞって解析する方法.正確であるが測定に時間がかかる.②二次元画像解析法(斜光照明法):レプリカに斜めに光を当ててその影の部分の画像をCCDカメラで取り込んで解析する方法.簡便に定量化できる方法であるが、大きなしわの陰に隠れた小さなしわを評価しにくい.③三次元画像解析法:照射角度を少しずつ変えながらレーザー光をレプリカ表面にくまなく照射し、レプリカ上に光が当たった点を真上から見たときの位置と光源の位置・照射角度からレプリカの高さを計算して三次元画像を得る光切断法、格子状の縞パターンの光をレプリカに投影して斜めから観察すると格子パターンがひずんで見え、これを解析する格子パターン投影法などがある.(江浜律子)