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乳液 [milky lotion]
水と油のように互いに混じり合わない二つの成分の一方を分散相として、他方の分散媒中に安定な状態で分散させたエマルションを基剤として適用した化粧品のうち、流動性のあるものの総称.流動性がほとんどなく半固形状に固まっているクリームに対し、乳液は安定性を保つのが困難であったため、スキンケア化粧品における重要なアイテムとしての歴史は、化粧水やクリームに比較して新しい.
目的・機能
皮膚の恒常性の維持・回復などの役割をもつスキンケア化粧品の中で、乳液は皮膚に水分、保湿成分、油分を補給して皮膚の保湿、柔軟機能を果たすことを目的とする化粧品であり、エモリエントローション、モイスチャーローション、モイスチャーエマルション、ナリシングミルクなどの名称がつけられる.この基本ともいうべき機能のほかに、乳液の特性を利用した化粧品として、洗浄剤、メーク落とし、化粧下地、サンプロテクターなどがある.
主成分
構成成分としてはクリームの構成成分と共通するものが多い.クリームに比較してのおもな相違点は、油分の総量が少なく、とくに固形の油分の比率が少ないこと、水中油(o/w)型の乳化系が採用されている場合が圧倒的に多いことである.以下に乳液に配合される主成分について述べる.
(1)水性成分
精製水、エタノール、保湿剤、水溶性高分子など.乳液に配合されるエタノールは化粧水の場合に比較すると概して量的には少ないが、化粧水と同様に使用感触や製品の防腐性を向上させるために効果的な場合がある.また、保湿剤はグリセリンやジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ポリエチレングリコール類などの多価アルコール類、ソルビトールやマルチトールなどの糖類などで、その製品に求められる保湿効果や使用感によって量や組成が決められる.水溶性高分子は、カルボキシビニルポリマー、キサンタンガム、セルロース誘導体などであり、使用感を左右すると同時にo/w型乳液において乳化粒子を安定化するという重要な役割を果たしている.
(2)油性成分
流動性の油分、固形の油分、その中間的な半固形油分の3種に大別され、求められる使用感に応じてその量や種類が決められる.流動性の油分としては、炭化水素系のスクワラン、植物油系のオリーブ油、ホホバ油、マカデミアナッツ油、ひまわり油など、シリコーン系のジメチルポリシロキサン、シクロメチコンなどがある.他方、固形の油分としては、炭化水素系の固形パラフィン、マイクロクリスタリンワックスなどや、高級アルコールのセタノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコールなどが、半固形のものとしてはワセリン、水添パーム油などがある.乳液では固形の油分の比率が比較的小さく、流動油分のみで構成される乳液も多い.
(3)乳化剤
非イオン性界面活性剤とイオン性界面活性剤がある.非イオン性のものとしては、モノステアリン酸グリセリン、POEソルビタン脂肪酸エステル、POEアルキルエーテル、POE硬化ひまし油などがある.イオン性のものはおもに陰イオン性界面活性剤である脂肪酸石けんである.それぞれ求められる使用感や、油分の種類・量によって、最適の組成が決められる.
(4)その他
脂肪酸やカルボキシビニルポリマーの中和に用いられるアルカリ剤(トリエタノールアミン、カセイカリなど)、製品の安定性を保つためのキレート剤(エデト酸塩など)や緩衝剤(クエン酸/クエン酸ナトリウムなど)、防腐剤(パラベン、イソプロピルメチルフェノールなど)、酸化防止剤(ビタミンE、ジブチルヒドロキシトルエンなど)、着色剤、香料などがある.
処方
代表的なエモリエントローションの処方について説明する.前述のように乳液はo/w型が主流で油分はおよそ数%〜30%程度であり、乳化剤は脂肪酸石けんや親水性の非イオン性界面活性剤が数%、これに数%〜20%程度の保湿剤、適量の防腐剤、香料などが組み合わされて処方が構成されている.油分の総量はしっとり感の強い乳液ほど多く、組成的にも固形・半固形の油分の比率が高くなっている.エモリエントクリームの場合、油分量が50%程度のものもあるが、クリームと比較すると油分の総量は概して少ない.一方、クレンジングエマルションの場合は、メークアップ化粧品とのなじみのよい流動パラフィン(ミネラルオイル)などを多く配合する必要があるため、油分総量としては40%程度またはそれ以上になる場合が多い.
製造法
主として、分散媒(o/w型乳液の場合の水相)に分散相(同じく油相)をかくはんしながら添加し予備的に乳化を行った後、機械的な力によって乳化粒子を微小化する方法がとられる.乳化がスムーズに進むようにするため、また微生物による汚染を防止するために、加熱して製造するケースも多い.これらの工程はクリームの製造工程と共通点をもっているが、粘度や乳化粒子の大きさなどの物性が製造工程条件によって左右されることが多いので、乳化条件(添加方法、乳化温度、成分の添加順序)、かくはん条件、乳化機の条件、冷却処理条件などについて、種々の検討を経て製品ごとに最適の条件が設定される.また、非常に強力な乳化機や特殊な乳化法(D相乳化)を用いるなどして、乳化粒子をきわめて小さく調製することによって、粘度が低く化粧水に近い使用感のものを安定に製造することも可能となってきた.(高橋淳)